要約
カイコの絹糸腺の全遺伝子(約17,000種類)について絹糸腺の部位別かつ経時的に発現量を詳細に調べたデータである。本データを用いることで、高品質なシルクをより多く作るカイコの品種育成や、カイコを用いた有用タンパク質の生産性向上が期待できる。
- キーワード : 絹糸腺、カイコ、RNA-Seq、トランスリプトームデータ、バイオインフォマティクス
- 担当 : 生物機能利用研究部門・昆虫利用技術研究領域・昆虫デザイン技術グループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 研究成果情報
背景・ねらい
カイコの遺伝子組換え技術は、カイコが本来作らないタンパク質をシルクと一緒に生産させることを可能にし、カイコにシルク生産以外の産業価値を生み出した。実際に、遺伝子組換えカイコを用いて有用タンパク質を作る技術はヒト体外診断薬や研究用試薬の製造に利用され、それらの製品はすでに市販されている。
今後、カイコの産業利用をさらに拡大させるには、有用物質の生産効率を高め、低コスト化を実現することが不可欠である。そのため、シルクの生産量がより多いカイコの品種の育成が望まれている。これを達成するためには、カイコ体内におけるシルクの合成メカニズムを理解する必要がある。
メカニズムを解明するためには、シルクを作る組織である絹糸腺のどの部位で、どのような遺伝子が、いつ働いているのかを詳細に調査することが重要となる。そこで、シルクが合成されるカイコ5齢幼虫の絹糸腺から部位毎にRNAを抽出し、RNA-Sequencing(RNA-Seq)を用いてカイコの全遺伝子(約17,000種類)の発現量を網羅的に解析する。
成果の内容・特徴
- カイコでシルクが作られる中部絹糸腺の各部位(前部、中部、後部)と後部絹糸腺を加えた4つの部位における全遺伝子の発現量を、カイコ系統「w1 pnd」の5齢幼虫(0~7日目)を24時間毎に分析して得られたデータである(図1)。
- 主要なシルク遺伝子である3つのセリシン遺伝子について、中部絹糸腺の各部位における発現量の経時的変化(図2)を過去の報告(論文)とそれぞれ比較すると互いに齟齬がなく、今回のデータは信憑性が高い。
- 本成果で取得した遺伝子発現量データ、およびこれらの関連データ(発現量データの元となったRNA-Seqのデータ、遺伝子発現量を求める際に行ったデータ解析の過程で得られた中間データを含む)は、全て公開している(URL:https://doi.org/10.6084/m9.figshare.c.6978654)。
成果の活用面・留意点
- 本成果は、シルク生産量向上の鍵となる新規遺伝子の同定に活用できる。これにより、高品質のシルクをより多く作るカイコ個体を迅速に選抜できるマーカーが開発され、従来より短期間での新品種作出につながることが期待される。
- シルク生産の鍵となる遺伝子を改変して1頭当たりのシルク生産量を増やし、有用タンパク質分泌システムと組み合わせることで、有用タンパク質の生産量を向上させることも活用できる。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 交付金、農林水産省(農林水産研究の推進 : 昆虫(カイコ)テクノロジーを活用したグリーンバイオ産業の創出プロジェクト)、文部科学省(科研費、COI-NEXT)、その他外部資金(ROIS-DS-JOINT)
- 研究期間 : 2022~2024年度
- 研究担当者 : 横井翔、増岡裕大、上樂明也、坪田拓也、瀬筒秀樹、小野浩雅(情報・システム研究機構ライフサイエンス統合データベースセンター)、千葉啓和(情報・システム研究機構ライフサイエンス統合データベースセンター)、坊農秀雅(広島大)
- 発表論文等 : Masuoka Y. et al. (2024) Sci. Data 11:709