日本産アメリカミズアブの高精度なゲノム情報と時空間的遺伝子発現データ

要約

日本産アメリカミズアブの成虫と幼虫の高精度なゲノム情報と遺伝子の働きを網羅的に把握できる多組織・時系列の遺伝子発現データである。これによりアメリカミズアブの有用系統育種やゲノム編集による育種の高度化が進むと期待される。

  • キーワード : 日本産アメリカミズアブ、次世代シーケンサー、有用系統育種、時系列(時間的)データ、組織間(空間的)データ
  • 担当 : 生物機能利用研究部門・昆虫利用技術研究領域・昆虫デザイン技術グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

アメリカミズアブは有機廃棄物の高速分解や高タンパク・高脂質といった特性から、飼料生産や資源循環に重要な生物として注目されている。しかし現在広く利用される多くの系統は北米由来の単一系統に起源をもち、遺伝的多様性の低さによる疾病リスクや環境変動への適応力低下が懸念される。さらに、生物資源の国際移動には知的財産や遺伝資源の取り扱いに関する制約があり、産業利用上の課題となっている。国産の有用形質の育種や高度利用には、高品質なゲノム情報と発育段階・組織別の遺伝子発現データが不可欠である。そこで、これまでに農研機構において樹立された日本産アメリカミズアブ系統について、本研究では最新ロングリード技術による高精度ゲノム解析と網羅的RNA-Seq解析により遺伝子機能の時空間的特徴を解明し、有用系統育種および産業利用に資する基盤情報の創出を目指す。

成果の内容・特徴

  • 本研究は、日本産のアメリカミズアブを対象に、高精度ゲノム解析によるゲノム情報と、発育段階(各段階の幼虫、成虫)・組織毎(全体、昆虫での排泄等に関する器官であるマルピーギ管、消化管)の遺伝子発現を総合的に調べたデータである(表1、図1)。ゲノムの質を示すN50値は従来公開データより高く、より連続性の高い配列を示す(表2)。
  • 日本産系統のゲノムから17,892個の遺伝子が予測でき、海外系統のゲノム情報と大きく違わなかった。また品質評価の指標であるBUSCO値は98.7%と高く、参照ゲノムとして十分な精度がある。
  • 関係が不明なデータ群を類似性に基づいて分類するクラスタリング解析を行うと、由来する組織・発育段階が似ているサンプル同士は同じクラスターに分類される(図2)ことから、得られた遺伝子発現情報は生体情報を適切に反映しており、信頼性が高い。
  • 時系列の遺伝子発現解析により、遺伝子の働き方が時間や場所で明確に変化することがわかることにより、有用な性質に関わる遺伝子の特定やそのメカニズムの解明が可能になる。本研究のデータはDDBJやFigshareで公開されている。

成果の活用面・留意点

  • 飼料用代替タンパク資源としての品質向上に向けて、アミノ酸合成遺伝子などの発現解析を用いることで、タンパク質含量が高い幼虫ステージを精度高く特定することが可能である。
  • バイオ燃料資源として、脂質を効率的に回収するため、脂肪酸合成が活発となる発育段階を明らかにし、最適な収穫時期を設定できる点も重要である。
  • しかし、本研究は「日本産の1系統」を対象とした解析であり、日本全国あるいは世界に存在するアメリカミズアブの遺伝的多様性を完全に反映するものではない。そのため、産業利用や育種への応用に際しては、複数系統を用いた比較検討が必要となる場合がある。

具体的データ

図1 本研究のワークフロー,表1 本研究で解析したアメリカミズアブの発育段階と組織,表2 本研究で構築したアメリカミズアブのゲノムデータと既報ゲノムデータとの比較,図2 アメリカミズアブの各組織又は発育段階での解析結果

その他

  • 予算区分 : 農林水産省(ムーンショット型農林水産研究開発事業)
  • 研究期間 : 2019~2025年度
  • 研究担当者 : 武田晃司、上原拓也、上樂明也、劉家銘、小林徹也、横井翔、霜田政美(東京大)
  • 発表論文等 : Takeda K. et al. (2026) Scientific Data. 13:98
    doi:10.1038/s41597-025-06410-w