要約
高精度プライム編集ガイドRNAを用いることで、従来法で問題となっていた不必要な変異の発生を抑制し、目的遺伝子への高効率かつ高精度な改変の導入が可能である。本法の利用により、植物において欠失や挿入だけでなく塩基置換等の任意の改変を導入した変異体を効率よく作出できる。
- キーワード : 精密ゲノム編集、プライム編集、プライム編集ガイドRNA、イネ
- 担当 : 生物機能利用研究部門・作物ゲノム編集研究領域・ゲノム編集技術グループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 研究成果情報
背景・ねらい
CRISPR/Cas9を基盤としたプライム編集(PE)技術は、ガイドRNAの末端に鋳型配列を付加したプライム編集ガイドRNA(pegRNA)とCas9に逆転写酵素を連結したPE酵素を用い、pegRNAの鋳型配列を逆転写することで標的遺伝子に任意の改変を導入する技術である。この技術は、植物の遺伝子を自在に改変することにおいて非常に有用であるが、PEによる改変効率の向上に伴い、標的配列周辺において生じる不必要な変異導入の増加が問題となっている。そこで本研究では、植物において不必要な変異を生じさせない高効率かつ高精度PEシステムの確立を目指す。
成果の内容・特徴
- PEによる標的遺伝子の改変は、PE酵素によるpegRNA末端の鋳型配列の逆転写により鋳型配列上の改変を標的遺伝子上にコピーすることで生じる(図1A)。
- PEによる鋳型配列の逆転写は鋳型配列の末端で終わらず、その後に続くPE酵素の足場配列の1~3塩基分を逆転写してしまうことがPEの立体構造解析から明らかになっている(Shuto et al., 2024 Nature)(図1B左)。これが不必要な変異導入の原因である。
- そこで、足場配列の逆転写由来の不必要な変異導入を抑制するため、PE酵素の足場配列を改良したpegRNA(pegRNA-HF)を用いた高精度PE系が動物細胞を用いた研究で開発されている(Shuto et al., 2024 Nature)(図1B右)。
- 本研究では、pegRNA-HFを用いたPEをイネに適用することで、内在性遺伝子への目的の変異導入効率は高いままで(図2A)、不必要な変異の発生を大幅に抑制できる(図2B)。
- 本法を用いて、イネアセト乳酸合成酵素遺伝子の改変による除草剤耐性の付与を実証している。このことからpegRNA-HFを用いたPEにより、イネの様々な内在性遺伝子を高効率かつ高精度で改変することで、イネに様々な有用形質を付与することができる。
成果の活用面・留意点
- 有用な農業形質に関わる遺伝子の変異は、欠失や挿入だけでなく塩基置換によるものが多いことが知られているため、本技術による精密な遺伝子改変は、基礎研究のみならず、作物育種への応用により品種改良の効率化が期待される。
- 本技術は、塩基置換や狙い通りの挿入や欠失だけでなく、計画的な長い挿入や欠失、染色体の逆位や転座などの大規模改変にも応用可能である。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 交付金、農林水産省(ムーンショット型農林水産研究開発事業)、SIP、文部科学省(科研費)
- 研究期間 : 2021~2025年度
- 研究担当者 : 横井彩子、飯田恵子、森明子、竹村美保(石川県立大)、主藤裕太郎(東大)、仲川綾哉(東大)、濡木理(東大)、土岐精一(龍谷大)
- 発表論文等 :
- Nishizawa-Yokoi A. et al. (2026) New Phytol.249: 2163-2172
- 濡木ら、特願(2025年5月27日)