国産ゲノム編集酵素タイプI-E CRISPR-Cas3を用いたイネのゲノム編集

要約

国産のゲノム編集酵素であるタイプI-EのCRISPR-Cas3を用いて、イネのターゲット遺伝子に数kbに及ぶ長い欠失を導入することができる。この技術の適用により、海外機関が特許を保有するCRISPR-Cas9を用いずに、ゲノム編集作物を開発することが可能である。

  • キーワード : ゲノム編集、CRISPR-Cas3、イネ、欠失
  • 担当 : 生物機能利用研究部門・作物ゲノム編集研究領域・ゲノム編集技術グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

ゲノム編集は特定の遺伝子を改変する技術であり、作物育種への利用が期待されている。一般的に利用されているゲノム編集酵素CRISPR-Cas9の特許は海外の開発機関が保有し、その利用条件等が不透明であることから、これに代わる新しい国産のゲノム編集酵素の開発が求められている。
大腸菌(学名 : Escherichia coli)から発見されたタイプI-E CRISPR-Cas3(以下、Eco CRISPR-Cas3という)は国産ゲノム編集酵素の一つであり、ターゲット遺伝子に長いDNA配列の欠失を導入できる特徴がある。Eco CRISPR-Cas3は、様々な哺乳動物でゲノム編集研究に利用される一方、植物では、トウモロコシの細胞への適用例しか報告されておらず、ゲノム編集植物体は作出されていない。本研究では、Eco CRISPR-Cas3を用いたゲノム編集イネの作出を実証し、CRISPR-Cas9を用いないゲノム編集技術としてEco CRISPR-Cas3を多様な作物に適用するための基礎的知見を得ることを目的とする。

成果の内容・特徴

  • イネのゲノム編集に利用するベクターには、Eco CRISPR-Cas3を構成する6種類のCasタンパク質とRNA分子(図1)に加え、ベクターが導入された細胞を選抜するための薬剤マーカー遺伝子が搭載されている。
  • 1.のベクターを導入したイネカルスの40~70%で、ターゲット遺伝子に欠失が導入されている。また、それらのカルスから再分化させた植物体で導入が確認された欠失は、その子孫に引き継がれる。
  • 2.のカルスにおいて、ターゲット遺伝子には、0.1kbから7.2kbの様々な長さの欠失が導入されている(図2)。
  • ゲノム編集では、ターゲット遺伝子とDNA配列が非常によく似た遺伝子を改変してしまうオフターゲット効果が知られている。イネゲノム中には、今回ゲノム編集実験を行った3つの遺伝子(OsPDS、OsDL、OsWaxy)のターゲット配列と約75%の相同性を持つ配列(オフターゲット候補配列)が3か所存在する。ターゲット遺伝子に欠失が導入されたカルスにおいて、オフターゲット候補配列には長い欠失が確認されないことから、Eco CRISPR-Cas3のオフターゲット効果による改変は生じていないことが示唆される。

成果の活用面・留意点

  • 上記ベクターを目的の作物に最適化することにより、イネ以外の作物においてもEco CRISPR-Cas3によるゲノム編集が可能であると期待される。
  • Eco CRISPR-Cas3によってターゲット遺伝子に導入される欠失の長さは0.1kbから7.2kbと一定ではない。複数のゲノム編集系統を作出することにより、目的とする長さの欠失が導入された系統を選抜する必要がある。
  • Eco CRISPR-Cas3のタンパク質が市販されている。それらを植物細胞で働かせることで、外来DNAを利用せずに、ターゲット遺伝子に欠失を導入できると期待される。
  • Eco CRISPR-Cas3のライセンスは、大阪大学発のベンチャー企業C4U株式会社が保有しているため、利用に当たっては個別に確認が必要である。

具体的データ

図1 Eco CRISPR-Cas3の構造,図2 Eco CRISPR-Cas3によって導入された変異(OsPDS遺伝子の例)

その他

  • 予算区分 : 農林水産省(戦略的プロジェクト研究推進事業 : ゲノム編集技術を活用した農作物品種・育種素材の開発(包括))、SIP
  • 研究期間 : 2020~2025年度
  • 研究担当者 : 雑賀啓明、原奈穂、安本周平(大阪大)、村中俊哉(大阪大)、吉見一人(東京大)、真下知士(東京大)、土岐精一(龍谷大)
  • 発表論文等 : Saika H. et al. (2026) Plant Cell Physiol. 67:82-92