ゲノム編集技術による作物形質の精密制御

要約

遺伝子の周辺に存在する近縁種間で保存された非コード配列(CNS)や、ゲノム中に存在する遺伝子のコピー数をゲノム編集によって改変することで、穂の枝分かれや草丈などの農業形質を段階的に改変させることができる。

  • キーワード : ゲノム編集、保存性非コード配列、コピー数多型、イネ
  • 担当 : 生物機能利用研究部門・作物ゲノム編集研究領域・ゲノム編集技術グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

作物育種を強化するための有望な手法として、ゲノム編集技術が注目されている。従来は、タンパク質をコードする領域を標的とし、遺伝子機能を欠損させる変異を導入する方法が多く用いられてきたが、機能欠損により農業形質に悪影響が出る場合は育種に利用できない。遺伝子機能をちょうど良いレベルに調節できれば、この問題を解決できる可能性がある。一方、作物のゲノムには近縁種のゲノムで保存された非コード配列(Conserved Noncoding Sequence ; CNS)が多数存在しており、遺伝子発現制御への関与が示唆されている。また、ゲノム中に重複して存在する遺伝子の数(コピー数)も遺伝子発現に関与している。そこで本研究では、イネをモデルとして、着粒数を決定する穂の枝分かれ(穂分枝)や草丈に関わる遺伝子を標的としてゲノム編集を行い、形質を精密に制御することを目的とする。

成果の内容・特徴

  • イネ科植物9種を含む単子葉植物11種を用いた比較ゲノム解析により、穂の形態形成に関わるTAWAWA1(TAW1)相同遺伝子の下流にCNSが検出される。このCNS領域を標的として、ゲノム編集により大小の欠失を引き起こしたイネ系統群を作成できる(図1)。
  • CNS全体を含む大規模な欠失が生じた系統では穂分枝が著しく増加するが、稔実率が低下してしまう。一方、CNS領域の後半部に小規模な欠失が生じた系統では稔実率が低下せず、穂分枝が中程度に増加する(図2)。
  • イネの草丈制御遺伝子OsGA20ox1遺伝子は「コシヒカリ」に3コピー存在する。ガイドRNAの5'端に30個のシトシン残基を付加し活性を抑制したCRISPR/Cas9を利用することで、重複したOsGA20ox1遺伝子の一部だけの機能を欠損させることができる。機能型遺伝子の数が2コピー、1コピー、0コピーのゲノム編集体では、幼苗の草丈が段階的に縮小する(図3)。

成果の活用面・留意点

  • 本成果で同定したTAW1遺伝子下流のCNS領域に用途に応じた規模の変異を導入することで、着粒数の増加と稔実率の維持を両立させたイネ品種の開発が期待される。TAW1のCNS改変に当たっては特許の実施許諾が必要である。
  • 作物のゲノムには多数のCNSや重複遺伝子が存在しているため、イネ以外の作物においても同様の方法で形質の精密改変が期待される。
  • 形質を改変させることができるCNSはその一部であると予想されるため、標的とするCNS領域を効率的に抽出する方法の開発が必要である。

具体的データ

図1 TAW1遺伝子周辺のCNSおよびゲノム編集により欠失させた部位,図2 CNS欠失系統の形質の概略,図3 OsGA20ox1遺伝子のコピー数改変による幼苗草丈の制御(発芽後5週目)

その他

  • 予算区分 : 交付金、農林水産省(イノベーション創出強化研究推進事業)、SIP、文部科学省(科研費)
  • 研究期間 : 2018~2025年度
  • 研究担当者 : 黒羽剛、Fabien Lombardo、岩嵜航 (東北大)、木水真由美、Svetlana Chechetka、川原善浩、吉田明希子(東北大)、牧野能士(東北大)、PARK HYUNGJUN、雑賀啓明、黒田昌治、吉田均
  • 発表論文等 :
    • Kuroha T. et al. (2025) Plant Biotechnol. J. 23:2667-2669
    • 吉田ら、特願(2024年8月9日)
    • Park H. et al. (2025) Front. Genome Ed. 7:1652950