要約
温室効果ガスN2Oは農地からも発生しており、それを抑制する技術の開発が必要である。そこで、高いN2O削減能力をもつ根粒菌をダイズに優占的に共生させることで、ダイズ収穫後にほ場から放出されるN2Oを削減する技術を開発した。本技術による地球温暖化抑制への貢献が期待される。
- キーワード : 温室効果ガス、N2O、ダイズ、根粒共生、根粒占有率
- 担当 : 生物機能利用研究部門・作物生長機構研究領域・作物環境適応グループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 研究成果情報
背景・ねらい
N2Oは二酸化炭素の約265倍の温室効果を示す主要な温室効果ガスである。その人為的発生量の約60%は農業に由来している。窒素(N)は作物の生育に必須な栄養素である反面、作物栽培のために農地に投入される窒素肥料や、収穫されずに残る作物残渣に由来する窒素源からN2Oが発生しており、このような農地由来のN2Oを削減する技術開発が必要である。ダイズは、土壌中の根粒菌と共生して根に複数の根粒を形成する。根粒の内部には増殖した多数の根粒菌が存在しており、根粒の老化・崩壊に伴い、これらの根粒菌は、N2Oの発生源となる窒素源と共に土壌中に放出される。本研究では、高いN2O削減能力を持つ根粒菌をダイズに優占的に共生させるダイズ・根粒菌共生系を開発することで、ダイズ収穫後にダイズほ場から放出されるN2Oを削減することを目標とした。
通常、高いN2O削減能力をもつ根粒菌をほ場に接種しても、ほ場に存在するN2O削減能力の低い土着根粒菌との感染競合が起こり、接種されたN2O削減根粒菌は根粒を占有することができない。これに伴い、N2O削減根粒菌を接種しても、そのN2O削減能力は充分に発揮されない。従って、N2O削減根粒菌の能力を最大化するためには、N2O削減根粒菌が根粒を高優占できるダイズ・根粒菌共生系の開発が必要である。
成果の内容・特徴
- 本研究では、ダイズがもつ「共生不和合性」現象(根粒菌が保有する特定のエフェクタータンパク質に対し、それに対応する不和合性遺伝子を持つダイズが、その根粒菌の感染を排除する現象)を利用した。不和合性遺伝子のうち、Rj2はNopP122エフェクターをもつ根粒菌の感染を排除する。一方、GmNNL1遺伝子は、NopP6、および、NopP110エフェクターを持つ根粒菌の感染を排除する。そこで、①2つの不和合性遺伝子Rj2およびGmNNL1を持つダイズ系統を交配により作出した。②NopPエフェクターを自然変異により欠損した不和合性回避型N2O削減根粒菌を作出した。ほ場に存在する土着根粒菌の多くは、NopP6、NopP110、および、NopP122エフェクターを保有しており、①のダイズ系統に感染することができない。一方で、NopPエフェクターを持たない不和合性回避型N2O削減根粒菌は、土着根粒菌と競合することなく①のダイズに感染できる(図1)。
- Rj2、および、GmNNL1により感染排除される根粒菌(Bradyrhizobium diazoefficiens USDA122、および、Bradyrhizobium japonicum USDA6、B. diazoefficiens USDA110)と不和合性回避型N2O削減根粒菌の競合接種実験を行い、競合接種した根粒菌の根粒占有率、および、根粒根を含む土壌から放出されるN2Oを比較した。不和合性遺伝子を持たないダイズ系統におけるN2O削減根粒菌の根粒占有率が55%だったのに対し、不和合性遺伝子集積ダイズでは根粒占有率が90%を超えた。これに伴い、不和合性遺伝子集積ダイズが放出するN2O量は、不和合性遺伝子を持たないダイズの15%にまで低減した(図2)。
- ほ場において、接種した不和合性回避型N2O削減根粒菌の根粒占有率、および、N2O放出量を解析した。不和合性遺伝子集積ダイズに対し、N2O削減根粒菌を接種していない区と接種した区を比較した結果、接種区の根粒占有率は64%となり、ダイズ収穫後に放出されたN2O量は、非接種区の26%まで低減した(図3)。
成果の活用面・留意点
- 不和合性遺伝子集積ダイズと不和合性回避型N2O削減根粒菌を組み合わせることで、ダイズ収穫後にダイズほ場から放出されるN2Oを低減させることが可能となり、環境負荷の低いダイズ生産体系の構築に寄与できる。
- 本技術を適用することで、有用な機能を持つ根粒菌を優占的にダイズに共生させ、その有用機能の発現を最大化できると考えられる。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 経済産業省(ムーンショット型研究開発事業)
- 研究期間 : 2020~2025年
- 研究担当者 : 今泉温子、西田帆那、Khin Thuzar Win、下田宜司、佐藤由紀子、李鋒、髙橋浩司、Matthew Shenton、坪倉美紗、秋山博子、南澤究(東北大)、板倉学(東北大)、大久保智司(東北大)、Luong Van Duc(東北大)、柿﨑芳里(東北大)、菅原雅之(帯広畜産大)、白須賢(理研)、増田幸子(理研)、柴田ありさ(理研)
- 発表論文等 :