中食・外食用の多収米品種「ほしじるし」と「とよめき」

要約

「ほしじるし」は中生の多収の粳種で、炊飯米は「コシヒカリ」よりわずかに硬く、粒がしっかりとして良食味である。「とよめき」は早生の極多収の粳種で、炊飯米は硬く、粘りすぎないことから冷凍チャーハン等への加工適性がある。両品種は、中食・外食用米としての利用が期待される。

  • キーワード:イネ、多収・良食味、炊飯米、中食・外食用
  • 担当:作物研・スマート育種基盤研究領域・オーダーメイド育種基盤グループ
  • 代表連絡先:
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

近年、食生活や環境の変化にともない、中食・外食用米の消費量は増加傾向にある。今後さらに消費量が伸びると予想されていることから、炊飯米が型崩れしにくく、釜離れしやすい等の加工適性が優れる中食・外食用の多収米品種の開発が求められている。そこで、収量性が高く、炊飯米特性が優れた中食・外食用の品種を開発する。

成果の内容・特徴

  • 「ほしじるし」は「関東199号」と「関東209号(後の「さとじまん」)」との交雑後代から育成された粳種である。育成地における出穂期は「月の光」並の"中生の中"、成熟期は「月の光」並の"中生の中"に属する(表1)。稈長は「月の光」より短く、耐倒伏性は"強"である。玄米収量は「月の光」に対して早植・多肥栽培で15%程度多収である。いもち病真性抵抗性遺伝子型は"+"であり、葉いもち圃場抵抗性は"中"である。縞葉枯病に"抵抗性"である。炊飯米の硬さは「コシヒカリ」よりわずかに硬く、食味は「コシヒカリ」並の良食味である(図1)。
  • 「とよめき」は「イクヒカリ」と「和1289(後の「やまだわら」)」との交雑後代から育成された粳種である。育成地における出穂期は「コシヒカリ」並の"早生の晩"、成熟期は「朝の光」並の"中生の早"に属する(表1)。稈長は「コシヒカリ」より低く、耐倒伏性は"やや強"である。玄米収量は「コシヒカリ」に対して早植・多肥栽培で60%程度多収である。いもち病真性抵抗性遺伝子型は"Pib"を保有し、葉いもち圃場抵抗性は"弱"である。縞葉枯病には"罹病性"である。炊飯米の食味は中程度で、「コシヒカリ」より硬く、粘りすぎない(図1)。また、冷凍チャーハンの食味はA社の標準加工用品種と比較して遜色がなく、加工適性が高い(図2)。
  • 米穀業者、食品メーカー等の実需者や生産者団体と連携して普及を進めた結果、作付面積は拡大している(図3)。

普及のための参考情報

  • 普及対象:JA全農、米穀業者、普及指導機関。
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:「ほしじるし」と「とよめき」の普及予定地は関東以西である。「ほしじるし」は、岐阜で奨励品種に採用され、2021年度は茨城、栃木、岐阜、愛知、三重の5県で産地品種銘柄に指定され、約2000ha作付けされており、今後5000haまで拡大見込である。「とよめき」は、鹿児島で奨励品種に採用され、2021年度は茨城、千葉、石川、兵庫、熊本、鹿児島の6県で産地品種銘柄に指定され、約800ha作付けされており、今後2000haまで拡大見込である。
  • その他:「ほしじるし」は縞葉枯病に"抵抗性"を持つことから、麦との二毛作栽培にも適している。「とよめき」はベンゾビシクロン、メソトリオンおよびテフリルトリオンに対して"感受性"のため、これらを含む除草剤は使用しない。「とよめき」は、いもち病真性抵抗性遺伝子Pibを保有するが、葉いもち圃場抵抗性は"弱"のため、侵害菌の発生に注意するとともに、発生が見られた時は防除を徹底する。両品種の標準作業手順書(SOP)の作成を進めている。

具体的データ

表1 「ほしじるし」と「とよめき」の主要特性,図1 「ほしじるし」(A)および「とよめき」(B)の炊飯米の食味,図2 「とよめき」の冷凍チャーハンの食味,図3 「ほしじるし」、「とよめき」の作付面積の推移

その他

  • 予算区分:交付金、農林水産省(技術でつなぐバリューチェーン構築のための研究開発のうち「強み」を生み出すための品種等の開発:実需者等のニーズに応じた超多収良食味業務用及び超多収加工用水稲品種等の開発、加工プロ4系:低コストで質の良い加工・業務用農産物の安定供給技術の開発)
  • 研究期間:2001~2021年度
  • 研究担当者:竹内善信、松下景、大森伸之介、荒井裕見子、後藤明俊、石井卓朗、佐藤宏之、平林秀介、常松浩史、田中淳一、加藤浩、根本博、小林伸哉、前田英郎、春原嘉弘、池ヶ谷智仁、安東郁男、太田久稔、出田収、井辺時雄、平山正賢(茨城県農総セ)、山口誠之、黒木慎、津田直人
  • 発表論文等: