暖冬でも出穂期が過度に早進しにくい多収の精麦用六条大麦新品種「さわゆたか」
要約
「さわゆたか」は並性の皮性六条大麦で、秋播性と晩生型の日長反応性遺伝子を持つため、暖冬でも出穂期が過度に早進しにくい。凍霜害が発生しやすい地域でも安定して多収性を発揮する。
- キーワード:オオムギ、秋播性、日長反応性、凍霜害
- 担当:作物研究部門・畑作物先端育種研究領域・畑作物先端育種グループ
- 代表連絡先:
- 分類:研究成果情報
背景・ねらい
暖冬では大麦の生育が過度に促進されて出穂が早まることで栄養生長期間が短縮したり、寒の戻りによる幼穂凍死や花粉不稔等の凍霜害が発生して収量が低下することがあり、麦作期間中の寒暖の差が大きい関東地域や中山間地では顕著である。そのため、これらの地域で大麦の収量を高位安定させるため、暖冬でも出穂が過度に早まりにくく安定して高収量が得られる品種が求められている。
成果の内容・特徴
- 「さわゆたか」は並性の六条皮麦で、短強稈でオオムギ縞萎縮病に強い「東山皮101号(後の「シルキースノウ」)」を母、多収でうどんこ病抵抗性の「関系b496(後の「関東皮81号」)」と精麦品質に優れる「東山皮96号(後の「ファイバースノウ」)」の交配に由来するF3系統を父親として人工交配を行い、以降、集団育種法で育成した品種である。
- 大麦の出穂期の主要な決定因子である日長反応性遺伝子PhyCが「シュンライ」「さやかぜ」と同じ晩生型で(表1)、これらの品種と同等の出穂期を示す中生系統である(表2)。
- 「シュンライ」と「さやかぜ」は春化要求性遺伝子Vrn-H2が春播型のため播性の程度がⅠの春播性であるのに対し、「さわゆたか」は春化要求性遺伝子が全て秋播型のため播性の程度がⅣの秋播性である(表1、2)。
- 暖冬での出穂の早進程度は「さやかぜ」よりも小さい(図1)。
- 稈長は「シュンライ」よりわずかに長く、「さやかぜ」より10cm長く、穂数はやや多い(表2)。
- オオムギ縞萎縮ウイルス系統Ⅰ~Ⅲ型とうどんこ病に抵抗性である(表2)。
- 「シュンライ」よりやや大粒で2割多収、「さやかぜ」より2~3割多収である(表2)。
- 「シュンライ」「さやかぜ」と比べて、硝子率が高く搗精時間がやや長いが、精麦白度は同程度である(表2)。
成果の活用面・留意点
- 栽培適地は東北南部から関東の平坦地、関東以西の中山間地である。
- 広島県内の農業協同組合において、管轄地域の中山間地でウイスキー原料用等として作付が開始されており、当面の普及予定面積は100haである。
- 長稈で耐倒伏性が十分でないため、厚播や極端な多肥栽培を避ける。
具体的データ

その他
- 予算区分:交付金、農林水産省(農林水産分野における気候変動対応のための研究開発:温暖化の進行に適応する品種・育種素材の開発)
- 研究期間:2002~2021年度
- 研究担当者:塔野岡卓司、高橋飛鳥、清水浩晶、青木恵美子、柳澤貴司、平将人、吉岡藤治、河田尚之
- 発表論文等:塔野岡ら「さわゆたか」品種登録出願公表第35813号(2021年10月26日)