コムギの穂の部位ごとの着粒数を制御するQTLの同定と集積効果
要約
コムギの穂の頂部、中央部、端部それぞれの部位の着粒数には異なる量的形質遺伝子座(QTL)が関与する。各部位において粒数を増加させるアリルを集積することにより、一穂粒数及び一穂粒重が有意に増加させることができる。
- キーワード:コムギ、一穂粒数、部位ごと着粒数、QTL、遺伝子集積
- 担当:作物研究部門・作物デザイン研究領域・作物デザイン開発グループ
- 代表連絡先:
- 分類:研究成果情報
背景・ねらい
一穂粒数は収量を決める重要な形質の一つである。コムギの一穂粒数を決める遺伝子として、WAPO-A1とGNI-A1などが近年同定されつつあるが、少数の遺伝子座しか特定されておらず、一穂粒数を効率的に改良することが困難である。そこで、本研究では穂の部位ごとで着粒数が異なる「しゅんよう」と多収品種「きたほなみ」由来の半数体倍加系統(DH系統)を用いて、一穂粒数及び関連する形質についてQTL解析を行い、コムギの一穂粒数の改良に役立つ新たなQTLを同定する。
成果の内容・特徴
- 穂を小穂数に応じて頂部・中央部・端部に3分割した場合(図1)、各部位の粒数を決定する主要なQTLの染色体上の位置は異なる(図2)。中央部と端部ではそれぞれ既報のGNI-A1とWAPO-A1を含む領域にQTLが検出され、「きたほなみ」のアリルが粒数を増加させる。頂部ではこれまでに報告がない5A染色体と7A染色体にQTLが検出され、「しゅんよう」のアリルが粒数を増加させる。
- 穂の中央部と端部で寄与率の高いGNI-A1、WAPO-A1領域、及び頂部で寄与率の高い5A染色体領域にあるQTLについて、粒数を増加させるアリルを集積することにより、一穂粒数が有意に増加させることができる(図3A)。本アリルの集積では千粒重は変化しない(図3B)ため、一穂粒重は増加する(図3C)。
成果の活用面・留意点
- 穂を分割して解析することにより、一穂粒数では検出できなかったQTLを全シーズンで安定して検出できる。
- 穂の頂部で着粒数を増加させる「しゅんよう」のアリルを多収品種「きたほなみ」に導入することで、「きたほなみ」の一穂粒数を増加させることが可能となる。今後、生産力検定試験で確認する必要がある。
具体的データ

その他
- 予算区分:交付金
- 研究期間:2016~2021年度
- 研究担当者:水野信之、石川吾郎、小島久代、藤郷誠、乙部千雅子、藤田雅也、中村和弘
- 発表論文等: Mizuno N. et al. (2021) Mol. Breed. 41:62