自然環境の干ばつを再現できる自動潅水制御システム

要約

ポット底面からの給水により1ポットごとに土壌水分を任意に制御できる自動潅水システムである。各ポットの植物体近傍の温湿度や照度、各ポット内の土壌水分や地温を常時監視する機能を持つ。本システムの利用によって、屋内環境にて自然界で起こる干ばつ状態を高い均一性で再現できる。

  • キーワード:環境変動、環境制御、自動潅水、IoT、環境センサー
  • 担当:作物研究部門・作物デザイン研究領域・作物デザイン開発グループ
  • 代表連絡先:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

温暖化などによる地球規模の環境変動により、世界中の農地で干ばつや土壌の荒廃が進んでいる。国内でも、豪雨、高潮による作物の冠水や塩害の被害など、これまでにない厳しい栽培環境へと変わりつつある。このような栽培環境に迅速に対応できる作物開発が世界中で求められている。しかし、一般的な作物開発の現場では、現在の気象・栽培環境で作物を評価するため、将来予想される栽培環境に適応した作物を迅速に開発することは難しい。また、干ばつ耐性などを圃場で評価する場合、降雨の制御が出来ず、圃場の不均一性の問題(排水・地力・潅水ムラなど)により正確な表現型データの取得は困難である。
そこで、本研究では、今後被害が深刻になると予想される干ばつを、屋内環境下における個々のポットで再現し、将来の不良環境に適応した作物をデザインできる栽培プラットホームを開発する。

成果の内容・特徴

  • 本システムは、ポット内の潅水ムラを抑制するため、水位センサーからの情報に基づき底面からの自動潅水を行い土壌水分を制御する(図1、図2左)。
  • 本システムは、温湿度センサー、照度センサー、土壌水分センサーシート(上中下の3か所)、ロッド状の地温センサー(計6か所)を各ポットに取り付け、植物を取り巻く微環境をリアルタイムで計測できる(図2右)。
  • 本システムを利用することで、自然環境に近い干ばつ状態をポットで再現し、圃場で干ばつに弱い水稲と干ばつに強い陸稲の生長の違いを評価できる。潅水区と干ばつ区を比較すると、水稲では干ばつ区で地上部の生育抑制が起こる一方、陸稲では水稲ほどの生育抑制は観察されず、干ばつに強いことが分かる(図3上)。圃場で観察されるように、地下部の生育も水稲では浅根型に、陸稲では深根型になることがCT画像から確認できる(図3下)。以上のことから、本システムを用いることで屋内において干ばつ条件下の作物の生長を正確に評価できる。

成果の活用面・留意点

  • 本システムを導入することで、10、20年後の日本の気温および水環境を想定した試験研究が可能になる。同様に、本システムを用いて海外の不良環境を再現すれば、日本にいながら、海外の現地と同じ条件で試験研究などの支援が可能になると期待される。ただし、本システムはポット栽培仕様であるため、根がポットの底面に着くまでの生育初期から中期までの評価に適している。
  • 本システムは、離れた場所から無線LANなどにつながったPCやタブレットを使い、365日いつでも無人で植物を栽培管理できる。
  • 本システムは、人工気象室や植物工場などの屋内栽培に特化した仕様で、スペースに合わせて導入個数を自由に選べる。

具体的データ

図1 底面潅水システム模式図,図2 使用例と各種環境センサーの配置,図3 本システムによる干ばつストレスの再現性検証

その他

  • 予算区分:文部科学省(戦略的創造研究推進事業)
  • 研究期間:2017~2021年度
  • 研究担当者:沼尻侑子、吉野花奈美、寺本翔太、林篤司(かずさDNA研)、西嶋遼、田中剛、林武司、川勝泰二、七夕高也(かずさDNA研)、宇賀優作
  • 発表論文等:Numajiri et al. (2021) Plant J. 105:1569-1580