大豆の子実肥大始期の間引き処理による青立ち抵抗性系統選抜に有効な方法

要約

子実肥大始期の間引き処理による青立ち発生は生育途中の光合成量の増大による、シンクサイズに対するソース能の過剰状態で説明される。間引き処理は圃場で簡易に青立ちを発生させる手法として、青立ち抵抗性系統の選抜に有効である。

  • キーワード : ダイズ、青立ち、間引き処理、ソース-シンク比
  • 担当 : 作物研究部門・畑作物先端育種研究領域・畑作物先端育種グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

大豆の青立ちは収穫期において莢が成熟しても茎葉の成熟が進まず、水分含量が高く、緑色のままになる現象(図1)で、発生圃場でコンバイン収穫効率が下がり、汚粒や刈遅れで子実品質の低下を招くため、各地で問題となっている。青立ち抵抗性品種(青立ちが発生しにくい品種)を開発するためには、青立ちが発生しやすい条件を人為的に作り出し、青立ちの発生が少ない品種を選抜することが有効である。子実肥大始期の間引き処理(図2)は、圃場で簡易に安定して人為的に青立ちを発生させる手法である(図3)が、作用機構が不明である。そこで、間引き処理が遺伝子発現とソース能(同化産物供給能力)に及ぼす影響を解析し、作用機構を解明する。

成果の内容・特徴

  • 間引き処理を行うと、茎でVSP(栄養体貯蔵タンパク質)とリポキシゲナーゼの遺伝子発現量が増加する(データ省略)。これらのタンパク質は、シンクサイズ(子実数)に対してソース能が過剰になったときに、余剰の同化産物を一時的に貯蔵するために葉や茎に蓄積することが知られている。
  • 間引き処理を行うと、単位葉面積当たりの葉の重量が増加し(図4A)、茎の重量の減少が抑制される(図4B)。
  • 上記の結果は、間引き処理による青立ち発生は、生育の途中で光が大豆群落の下までに届くことで光合成が増大し、シンクサイズに対してソース能が過剰になることで、ソースーシンク比が増大することが原因であることを示す。先行研究では、青立ちは種々のストレスによる落花・落莢でシンクサイズが不足することで、ソース-シンク比が増大することが主な原因であるとされ、これと同じ生理メカニズムであると考えられる。

成果の活用面・留意点

  • 間引き処理による青立ちと、生産現場で落花・落莢によって発生する青立ちは、同じ生理メカニズムで生じる。このため、間引き処理は青立ち抵抗性系統の選抜として有効な手法である。
  • 本結果は、広島県福山市の圃場で「サチユタカ」を供試し、水管理および病虫害防除を適宜行った条件下で得られたものである。間引き処理による青立ち抵抗性系統の選抜を行うにあたり、圃場や気象条件等の異なる場合は処理条件の検討が必要となる可能性がある。

具体的データ

図1 収穫期の大豆植物体,図2 間引き処理,図3 間引き処理による「サチユタカ」と「はつさやか」の青立ち程度の品種間差の検出,図4 子実肥大始期の間引き処理が生育に及ぼす影響

その他

  • 予算区分 : 交付金
  • 研究期間 : 2016~2018年度
  • 研究担当者 : 山崎諒、田中朋之(京都大)、小木曽映里、川崎洋平、白岩立彦(京都大)
  • 発表論文等 : Yamazaki R. et al. (2022) Scientific Reports 12: 10440