遺伝資源から世界で初めて選抜したイネごま葉枯病抵抗性遺伝子bsr1を活用した品種育成

要約

達観によるイネごま葉枯病抵抗性圃場検定法を開発し、農研機構のジーンバンクが保有する遺伝資源等から世界で初めて潜性の抵抗性遺伝子bsr1を選抜する。bsr1を導入したごま葉枯病抵抗性の実用品種「みえのゆめBSL」が育成されている。

  • キーワード : イネ、ごま葉枯病抵抗性、bsr1、QTL解析、みえのゆめBSL
  • 担当 : 作物研究部門・スマート育種基盤研究領域・オーダーメイド育種基盤グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

イネごま葉枯病(以下、ごま葉枯病)は地球温暖化により世界的に多発生が懸念されている病害であり、我が国でも、発生面積が第3位の主要な糸状菌病害である。低投入型農業の実現のためには、抵抗性遺伝子の育種利用が有効であるが、育種現場で使用できるごま葉枯病抵抗性検定法がないため、今まで品種育成が行われていない。そこで、本研究では達観によるごま葉枯病抵抗性検定法を開発し、遺伝資源のスクリーニングを実施し、抵抗性遺伝子を選抜する。さらに、戻し交配とDNAマーカー選抜を用いて日本の品種に抵抗性を導入した実用的な準同質遺伝子系統を作出する。

成果の内容・特徴

  • 進展性病斑(図1)の有無と病斑面積率(%)を達観に基づいて判定することにより、ごま葉枯病の発病程度を10段階(0:病斑なし、9:病斑面積率50%以上)で評価できる簡便な検定法を作成する(表1)。
  • 新たな検定法を用いて、農研機構のジーンバンクが保有する遺伝資源(世界コアコレクション(WRC)および日本コアコレクション(JRC))等、計119品種のごま葉枯病抵抗性を評価し、"強"に分類された海外品種が育種母本として有効であることが示唆される(図2)。
  • 抵抗性"強"の品種「Tadukan」を用いたQTL解析の結果、世界で初めて作用力の強い潜性のごま葉枯病抵抗性遺伝子を検出し、bsr1(brown spot resistance 1)と付名する。
  • bsr1を連続戻し交雑により「みえのゆめ」に導入した「みえのゆめBSL」は、ごま葉枯病抵抗性が"強"であり(図3)、ごま葉枯病が多発する条件では「みえのゆめ」より約3割程度増収となる実用品種である。

成果の活用面・留意点

  • 「みえのゆめBSL」は、「みえのゆめ品種群」として産地品種銘柄設定され、三重県が「みえのゆめ」に置き換えて800 ha栽培している(2022年度)。
  • ごま葉枯病抵抗性遺伝子(bsr1)は病気の感染を完全に防ぐものではなく、感染した病気の進展を抑えるように働く遺伝子である。

具体的データ

図1 ごま葉枯病菌の感染による進展性病斑,表1 ごま葉枯病発病程度調査基準,図2 海外および日本品種におけるごま葉枯病抵抗性の評価,図3 ごま葉枯病検定圃場での発生程度

その他

  • 予算区分 : 交付金、農林水産省(温暖化の進行に適応する生産安定技術の開発)
  • 研究期間 : 2011~2022年度
  • 研究担当者 : 溝淵律子、松本憲悟(三重県農研)、太田雄也(三重県農研)、山川智大(三重県農研)、大野鉄平(三重県農研)、瀬田聡美(三重県農研)、本多雄登(三重県農研)、佐藤宏之
  • 発表論文等 :
    • Matsumoto K. et al. (2021) Breed. Sci. 71:474-483
    • Mizobuchi R. et al. (2016) Rice 9:23
      doi:10.1186/s12284-016-0095-4
    • 松本ら(2016) 育種学研究 18:103-111
    • Sato H. et al. (2015) Breed. Sci. 65:170-175