日本の水稲集団から検出された冠根の数を制御する遺伝子領域

要約

本遺伝子領域はゲノムワイド関連解析により日本の水稲集団から検出された冠根の数を制御する領域である。この遺伝子領域は3つのハプロタイプに分類でき、各ハプロタイプは幼苗期および中苗期の冠根の数と相関する。日本イネ根系の形質評価に利用できる。

  • キーワード : 集団解析、GWAS、根系形質、地域間差異、育種材料
  • 担当 : 作物研究部門・作物デザイン研究領域・作物デザイン開発グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

作物の根系は養水分の吸収に影響を与える重要な形質である。しかし、比較的容易に観察できる地上部と違い地下部である根は土中にあり、計測が難しく、品種改良に利用できる遺伝子領域は限られている。そこで本研究ではイネを研究材料として、冠根の数、根の長さおよび根の伸長角度を形質としてゲノムワイド関連解析を行い、根系形態を制御する遺伝子領域を検出する。

成果の内容・特徴

  • 日本の水稲135品種を10日間水耕栽培したときの冠根の数について、ゲノムワイド関連解析により第4染色体上に検出された遺伝子領域である(図1)。今回用いた集団では根の長さおよび根の伸長角度に関する有意な遺伝子領域は認められない。
  • 候補領域内に機能が予測できる遺伝子が3つ認められる。これら遺伝子内にある塩基多形情報からハプロタイプ1、2、および3に分類される。水稲135品種をハプロタイプごとに分類したところ、ハプロタイプ1を持つ品種の冠根の数が一番多く、ハプロタイプ2および3の順番で冠根の数が減少する(図2)。
  • ハプロタイプ1は東北地方、ハプロタイプ2は北海道、ハプロタイプ3は北陸地方に多く分布している(表1)。

成果の活用面・留意点

  • 交配育種により本遺伝子領域のハプロタイプを改変することで、冠根の数を改良できる可能性がある。冠根の数と関連する肥料の吸収効率および倒伏耐性との関係を明らかにする必要がある。
  • 今回検出された遺伝子領域が冠根の数以外の形質に影響を与えるか評価する必要がある。

具体的データ

図1 ゲノムワイド関連解析の結果,図2 ハプロタイプと冠根の数の関係,表1 日本での各ハプロタイプの分布 https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/

その他

  • 予算区分 : 交付金、農林水産省(研究推進事業委託プロジェクト研究:育種ビッグデータの整備および情報解析技術を活用した高度育種システムの開発)、文部科学省(戦略的創造研究推進事業:環境変動に対する植物の頑健性の解明と応用に向けた基盤技術の創出)
  • 研究期間 : 2019~2021年度
  • 研究担当者 : 寺本翔太、山崎将紀(神戸大)、宇賀優作
  • 発表論文等 : Teramoto S. et al. (2022) Breed. Sci. 72(3):222-231