要約
「やわらまる」はデンプン枝付け酵素I(Sbe1)活性欠損性を導入した初の多収粳品種である。米デンプン中のアミロペクチンの短鎖比率が高く、本品種の米粉を利用することでパンなどの製品の柔らかさを保持しやすくなる。
- キーワード : 水稲、米粉、パン、柔らかさ
- 担当 : 作物研究部門・スマート育種基盤研究領域・オーダーメイド育種基盤グループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 研究成果情報
背景・ねらい
米の消費量は毎年約10万tずつ減少しており、水田をフル活用するために米の利用形態を増やすことが重要な課題となっている。とりわけ、食料安全保障の観点から輸入小麦の代替としての米粉の需要拡大が求められている。デンプン中のアミロペクチンの短鎖比率を高くした場合、デンプンは糊化温度が低下し冷めても硬くなりにくくなることが知られている。この性質を米品種に導入することで、パンや和菓子の柔らかさ保持に役立つ米粉の生産が期待できるため、多収品種「あきだわら」に導入し、米粉製品の柔らかさ保持に役立つ米粉に向く多収の粳品種を開発する。
成果の内容・特徴
- 「やわらまる」は、在来種「旱不知D」に多収品種「あきだわら」を5回戻し交配して育成したデンプン枝付け酵素I (Sbe1)活性欠損性を持つ品種である。
- 出穂期と成熟期は「あきだわら」と同程度であり、育成地では"やや晩"に属する。稈長と穂長は「あきだわら」と同程度である。収量性は標肥栽培では「あきだわら」より10%低く、多肥栽培では「あきだわら」よりも6%低いものの、「日本晴」などの一般的な品種よりは多収である。玄米千粒重は「あきだわら」並であり、外観品質は「あきだわら」より劣り、食味は「あきだわら」と同等である。葉いもち圃場抵抗性は"弱"、穂いもち圃場抵抗性は"中"であり、縞葉枯病に対しては"罹病性"である(表1)。
- 「やわらまる」は、デンプンのアミロペクチン合成に働くデンプン枝付け酵素Iの活性を欠くため、柔らかさ保持性の指標となるアミロペクチン短鎖(重合度6~11)の比率が「あきだわら」より高い(図1)。
- パン用小麦粉に「やわらまる」の米粉および「あきだわら」の米粉を30%ブレンドした2種類のパンを比較すると、外観は変わらずに製造することができる。一方、パンの焼成後4°Cで4日間保存した場合「やわらまる」の米粉をブレンドしたパンは「あきだわら」の米粉をブレンドしたパンに比べて、硬くなりにくく柔らかさが保持される(図2)。
成果の活用面・留意点
- 「やわらまる」の米粉ブレンド製品の柔らかさ保持性への効果は、柏餅、イングリッシュマフィンでも確認できている。
- 本品種の米粉を用いて即席麺を製造する技術についての特許出願が農研機構食品研究部門・作物研究部門からされている。今後、この品種を利用した即席麺製品の製品化も期待される。
- 「やわらまる」の栽培適地は関東・北陸地域以西である。
- 「やわらまる」はいもち病に弱く耐倒伏性も十分でないため、極端な多肥栽培は避け、適切ないもち病の防除を行う。縞葉枯病に罹病性なので、常発地での栽培は避ける。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 交付金、農林水産省(イノベーション創出強化研究推進事業)
- 研究期間 : 2012~2023年度
- 研究担当者 : 後藤明俊、竹内善信、大森伸之介、松下景、前田英郎、石井卓朗、田中淳一、梅本貴之、黒木慎、佐藤宏之、松原一樹、金達英
- 発表論文等 :
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竹内ら「やわらまる」品種登録出願公表第36724号(2023年8月22日)
- 梅本ら、特願(2022年12月28日)