イネもみ枯細菌病抵抗性遺伝子RBG1は苗立枯細菌病にも抵抗性を示す

要約

もみ枯細菌病菌による苗腐敗症に対するイネの抵抗性遺伝子RBG1は新規のMAPKKKと呼ばれる酵素をコードし、感染後の植物体内のABA量を抑制することにより発病を抑えていると推測される。RBG1はもみ枯細菌病菌(Burkholderia glumae)と同じ属の苗立枯細菌病菌にも抵抗性を示す。

  • キーワード : イネ、もみ枯細菌病抵抗性、苗立枯細菌病抵抗性、RBG1、ABA
  • 担当 : 作物研究部門・スマート育種基盤研究領域・オーダーメイド育種基盤グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

イネもみ枯細菌病(以下、もみ枯細菌病)は地球温暖化により世界的に多発生が懸念されている種子伝染性の重要病害であり、日本における防除面積は30年前に比べて約2倍に増えている。もみ枯細菌病の病徴として、苗が腐敗し枯死してしまう症状(苗腐敗症)と籾が褐変する症状があるが、いずれの病徴に対しても抵抗性を示す栽培品種は今まで見つかっていないため、現在は殺菌剤を用いた防除が主流であるが、薬剤耐性菌の発生が問題となっている。農研機構ではインド由来の在来品種「Nona Bokra」がもみ枯細菌病菌による苗腐敗症に抵抗性を示すことを明らかにし、「Nona Bokra」の抵抗性遺伝子を世界で初めて見出したため、遺伝子名をRBG1 (Resistance to Burkholderia glumae 1)と付名した。本研究では、RBG1遺伝子のメカニズムと効果を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • RBG1遺伝子はMAPキナーゼカスケードと呼ばれるシグナルの伝達経路に属する新規のMAPKKKと呼ばれる酵素をコードし、OsMKK3タンパク質をリン酸化する(図1)。抵抗性品種「Nona Bokra」型MAPKKKはOsMKK3タンパク質をリン酸化する能力が高まっている(図1)。
  • OsMKK3は、植物ホルモンのアブシジン酸(ABA)との関与が知られている。罹病性品種「コシヒカリ」に「Nona Bokra」の抵抗性遺伝子RBG1を含む染色体領域を導入した系統(RBG1-NIL)は菌の感染後にABAレポーター遺伝子(ABAにより発現が誘導される遺伝子)の発現が「コシヒカリ」より少なく、植物体内のABAがコシヒカリより少ないと推測される(図2a)。RBG1-NILにもみ枯細菌病菌を接種後に、ABAを噴霧すると発病度が高まる(図2b)。以上から、RBG1遺伝子はもみ枯細菌病菌に感染した際に、植物体内のABA量を抑制することにより発病を抑えていると推測される。
  • RBG1-NILは、もみ枯細菌病菌による苗腐敗症状が「Nona Bokra」には及ばないものの「コシヒカリ」と比べて少ない(図3)。
  • RBG1-NILはもみ枯細菌病菌と同じBurkholderia属の苗立枯細菌病菌(B. plantarii)にも抵抗性を示す(図4)。

成果の活用面・留意点

  • RBG1遺伝子を有する系統はもみ枯細菌病菌と同じBurkholderia属の苗立枯細菌病菌にも抵抗性を示すことから、RBG1の育種利用により育苗時に発生する複数の細菌病に対する抵抗性品種の開発が期待できる。
  • もみ枯細菌病抵抗性遺伝子RBG1は病気の感染を完全に防ぐものではなく、感染した病気の進展を抑えるように働く抵抗性である。

具体的データ

図132Pを用いたRBG1タンパク質によるOsMKK3タンパク質のin vitroでのリン酸化活性の定量(抵抗性品種型RBG1タンパク質(GST-NB)は罹病性品種型RBG1タンパク質(GST-KO)よりOsMKK3のリン酸化能が高い。GSTはタンパク質の精製に用いるタンパク質で、RBG1と連結した状態で使用する。+および-はRBG1タンパク質の有(+)無(-)を示す。OsMKK3タンパク質はRBG1タンパク質が無くても低レベルで自己リン酸化する(黒い棒グラフ)。,図2 (a)もみ枯細菌病菌(B. glumae)を接種し、3時間後の胚におけるABAレポーター遺伝子(OsRab16B)の発現 (b)RBG1-NIL種子にもみ枯細菌病菌 を感染させて4日後にABAを噴霧し3日目の発病程度,図3 もみ枯細菌病菌(B. glumae)を
種子に付着させて播種7日後の発病程度,図4 苗立枯細菌病菌(B. plantarii)を種子に付着させて播種7日後の発病程度

その他

  • 予算区分 : 交付金、農林水産省(農林水産分野における気候変動対応のための研究開発:温暖化の進行に適応する生産安定技術の開発、戦略的プロジェクト研究推進事業:民間事業者、地方公設試等の種苗開発を支える育種基盤技術の開発)、文部科学省(科研費)
  • 研究期間 : 2013~2023年度
  • 研究担当者 : 溝淵律子、杉本和彦、對馬誠也、福岡修一、遠藤真咲、三上雅史、雑賀啓明、佐藤宏之
  • 発表論文等 :
    • Mizobuchi R. et al. (2023) Sci. Rep. 13:3947
    • Mizobuchi R. et al. (2020) Breed. Sci. 70:221-230
    • Mizobuchi R. et al. (2013) Theor. Appl. Genet. 126:2417-2425