サツマイモ品種「あまはづき」の蒸しいも食感を制御するゲノム領域

要約

粘質品種「あまはづき」のねっとりとした食感は2つのゲノム領域で制御される。これらの領域でDNAマーカーを作成し、交配後代でその有無を調査することで、ねっとりとした食感の個体を選抜できる。

  • キーワード : サツマイモ、いも食感、DNAマーカー、高次倍数体、polyploid QTL-seq法
  • 担当 : 作物研究部門・ゲノム育種支援室
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

サツマイモは近年、「ベニアズマ」に代表されるほくほくとした食感の粉質品種から、「べにはるか」に代表されるねっとりとした食感の粘質品種まで、多様な品種が求められている。交配育種ではいもの食感は限られた育種系統のみで評価されるため、親系統から後代系統へいもの食感がどのような遺伝様式で受け継がれるかは不明である。本研究ではいもの食味改良の効率化を目指して、収穫直後からねっとりとした食感を示す粘質品種「あまはづき」と粉質品種「ベニコマチ」の交配後代個体を用いて、いもの食感を制御するゲノム領域を同定し、苗のDNA分析で任意の食感を示す個体を選抜可能か検証する。

成果の内容・特徴

  • 「あまはづき」と「ベニコマチ」の交配後代では粉質から粘質まで多様な食感を示す個体が現れる。蒸しいもの食感は切断面における蜜状に浸潤した部分の面積割合と高い相関があり(図1)、浸潤面積割合を測定することによっていもの食感を高精度に評価できる。
  • サツマイモの同質六倍体ゲノムに対応したゲノム領域同定法のpolyploid QTL-seq法により蒸しいも切断面浸潤面積割合と相関するゲノム領域を探索すると、浸潤面積割合を増加するゲノム領域が「あまはづき」の第5染色体と第7染色体、「ベニコマチ」の第15染色体に存在し(図2A)、これらのゲノム領域が蒸しいも食感の粘質化に関与する。
  • 上記のゲノム領域でそれぞれDNAマーカーを作成し、「あまはづき」と「ベニコマチ」の交配後代の苗からDNAを調製して当該領域の有無を判別することで、粘質から粉質まで様々な食感の個体が得られる。特に、「あまはづき」由来の2つのゲノム領域を持つと、粘質食感の個体が選抜できる(図2B)。

成果の活用面・留意点

  • 高次倍数体作物でゲノム領域を同定するpolyploid QTL-seq法については発表論文で詳説されており、Linux環境で動作する解析プログラムがGitHubで公開されている。
  • 「あまはづき」と「ベニコマチ」の交配後代で利用できるDNAマーカー配列情報は発表論文に記載されている。上記以外の交配組み合わせでは別途DNAマーカーを作成する必要がある。

具体的データ

図1 「あまはづき」、「ベニコマチ」、それらの交配後代の蒸しいも断面浸潤面積割合(A:百分率で示す)と蒸しいもの食感との相関(B),図2 蒸しいも断面浸潤面積割合を制御するゲノム領域(A)とそれらの組み合わせの効果(B)

その他

  • 予算区分 : 交付金、農林水産省(国際競争力強化技術開発プロジェクト)、文部科学省(科研費)
  • 研究期間 : 2020~2023年度
  • 研究担当者 : 山川博幹、水林達実、田中勝
  • 発表論文等 : Yamakawa H. et al. (2023) Breed. Sci. 74: 103-113