要約
日本型イネ4品種の遺伝的背景に早朝開花性qEMF3を導入した準同質遺伝子系統では、反復親品種に比べて開花時刻が3~4時間早まることで、不稔の危険性が高まる開花時の35°C以上の高温を回避し、高温不稔を軽減できる。
- キーワード : 早朝開花性、qEMF3、高温不稔、開花時刻、日本型イネ
- 担当 : 作物研究部門・作物デザイン研究領域・作物遺伝子機能評価グループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 研究成果情報
背景・ねらい
近年は地球温暖化が進み、特に今年は夏場の異常高温が観測された。イネは開花時に35°C以上の高温にさらされると不稔になる危険性が高まることが知られており、O.officinalis由来の早朝開花性QTL(qEMF3)をインド型品種の遺伝的背景に導入した準同質遺伝子系統(NILs)では、開花時の高温不稔発生を軽減できることが実証されている(インド圃場、不稔率IR64:19.2%、IR64+qEMF3:5.35%、Bheemanahalli et.al.2017)。しかし、日本で普及している日本型品種の遺伝的背景では、qEMF3の導入による開花時刻の早朝化および開花時高温不稔回避効果が示されていない。そこで、本研究では、日本型イネ4品種の遺伝的背景にqEMF3を導入して作出した準同質遺伝子系統(NILs)を用いて、開花時刻の早朝化および高温不稔の回避効果を明らかにする。
成果の内容・特徴
- 早生で高温にさらされやすい「ひとめぼれ」と「とよめき」、および高温不稔耐性が弱い「ヒノヒカリ」と「にこまる」の計4種の日本型イネ品種の遺伝的背景に早朝開花性qEMF3を「コシヒカリ+qEMF3」から4回の戻し交配および表現型選抜により導入し、NILsを作出した。
- 開花当日に人工気象器内の温度を28°Cから40°Cに上昇させた高温処理区において、それぞれの反復親品種が10~12時に開花し35°C以上の高温にさらされるのに対し、早朝開花性qEMF3を導入したNILsでは、6時30分~9時までの早朝に概ね開花し、開花時の気温は35°C以下である。(図1、図2)
- 開花日のみの高温処理区の稔実率は、反復親4品種が15%以下であるのに対し、qEMF3を導入したNILsは70%以上であり、高温不稔を有意に軽減できる。(図1、図2)。
- 出穂期に35°Cの日中の連続高温を行った鹿児島県のガラス温室内コンクリート枠水田の試験でも、反復親品種と比較して、有意に高い稔実率を示す(図3)。しかし、開花時以外の高温ストレスも受けるため、開花前の高温不稔耐性などの違いによりqEMF3の効果は遺伝的背景間で差がみられる。
成果の活用面・留意点
- 本実験で用いた早朝開花性qEMF3導入NILsは日本型イネ品種との交配母本として利用できる。
- 早朝開花性qEMF3の選抜マーカーは開発中である。
- 早朝開花試験および不稔率の試験は、つくば市でのポット試験および鹿児島県南さつま市のガラス温室内コンクリート水田の結果であり、圃場での試験は行っていない。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 交付金、農林水産省(農林水産分野における気候変動対応のための研究開発:温暖化の進行に適応する品種・育種素材の開発)、文部科学省(科研費)
- 研究期間 : 2015~2022年度
- 研究担当者 : 平林秀介、田之頭拓(鹿児島県農総セ)、田中明男(鹿児島県農総セ)、竹牟禮穣(鹿児島県農総セ)、若松謙一(鹿児島県農総セ)、石丸努、佐々木和浩(国際農研)
- 発表論文等 : 平林ら(2023)育種学研究、25:140-149