要約
様々な干ばつを屋内で再現できる環境制御ユニットを利用し、稲の干ばつ応答性遺伝子群を同定するものである。干ばつ処理の時期や強度に関わらず干ばつ応答遺伝子は早く応答するものと遅く応答するものの2群に分類される。本研究で得た発現情報は干ばつ耐性作物の作出に活用できる。
- キーワード : 環境制御、オミクス解析、干ばつ耐性、遺伝子発現、環境変動
- 担当 : 作物研究部門・作物デザイン研究領域・作物デザイン開発グループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 研究成果情報
背景・ねらい
近年、国内外の水田で干ばつが頻発し、食料安全保障や国内での安定生産のために、干ばつ耐性イネの開発が急務である。干ばつがイネの田植えから収穫期のどの時期に起こるのかを正確に予測できない。異なる干ばつのタイミングに対して、イネの乾燥応答遺伝子がどのように働いているのか、これまでの研究ではよくわかっておらず、品種改良も進んでいない。原因の1つは、野外では変動する気候や土壌の不均一性の影響により作物の干ばつ応答を正確に評価することが困難なことにある。
解決策として、人工環境内に干ばつを再現し、年間を通して安定したストレス環境で植物を正確に評価する方法が挙げられる。本研究では人工気象室内で様々な干ばつ条件を再現し、経時的な表現型計測および遺伝子発現解析を実施し、干ばつ応答に特有の遺伝子群を明らかにする。
成果の内容・特徴
- 水稲品種「日本晴」を対象に生育段階や干ばつ強度が異なる7パターンの栽培条件を設定し、経時的な生育変化を3日おきに計測する。収量関連形質は収穫時に調査する。生育初期、中期、後期に強い干ばつを与えた際は、生長遅延や収量にそれぞれ異なる影響が起こる(図1)。
- 表現型計測と同じタイミングで全遺伝子の発現解析を実施する(サンプル計576点)。干ばつを与える生育時期に関わらず、乾燥応答遺伝子群は同じ発現パターンを示す(図2左)。
- これまでに報告されてきた干ばつストレス耐性遺伝子群が含まれており、人工気象室を用いた干ばつ条件下での表現計測および遺伝子発現解析は干ばつストレス応答性を正確に解析している。
- この解析技術により、アブシシン酸応答を誘導する遺伝子群が乾燥強度に応じて早く応答するのに対し、DREB遺伝子などの別の乾燥応答性遺伝子群が遅く応答することが新たに分かった。(図2右)。
成果の活用面・留意点
- 様々な干ばつ状態に対応したストレス応答耐性遺伝子の改変候補を選別できる。
- 詳細な解析を通して、どの時期の干ばつにも対応したイネを作出するための改変遺伝子候補を選抜できる。
- 本研究は干ばつを再現した人工環境下で得られた知見であるため、野外における検証が必要である。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 交付金、文部科学省(戦略的創造研究推進事業、ムーンショット型研究開発事業)
- 研究期間 : 2022~2023年度
- 研究担当者 : 相馬史幸、桂田悠花、川勝泰二、宇賀優作
- 発表論文等 : Soma F et al. (2024) Plant Cell Physiol. 65:156-168
doi.org/10.1093/pcp/pcad135