要約
イネ根の内部の炭素動態を可視化できるPET-CTイメージング技術により、干ばつ状況に応じて光合成産物の分配先(根)を素早く切り替えることを発見する。イネの干ばつ適応機構の一つを解明し、今後この適応機構を改良することで干ばつ耐性イネの開発が期待できる。
- キーワード : ラジオアイソトープ、イメージング、非破壊計測、干ばつ
- 担当 : 作物研究部門・作物デザイン研究領域・作物デザイン開発グループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 研究成果情報
背景・ねらい
地球規模の環境変動により世界中の農地で干ばつが発生している。作物の根系形態は干ばつ耐性に関与する重要な形質である。植物は干ばつ時に地中の水分の多い方向に根を伸ばす仕組みを備えており、根が深く伸びる植物は一般に干ばつに強い。しかし、その形態生理学的メカニズムはよく分かっておらず、根の品種改良はほとんど進んでいない。その大きな原因は、地中の根を掘らずに非破壊で観察することが困難な点にある。本研究ではX線CT(Computed Tomography)とラジオアイソトープ(RI)を使ったPET(Positron emission tomography)を融合した画像解析技術を構築し、イネにおいて根の生長のエネルギー源である光合成産物の転流を可視化する。これにより、干ばつにイネがどのように適応しようとしているのかを解明する。
成果の内容・特徴
- ポットで栽培したイネの根系形態をX線CTにより可視化する(図1)。イネの葉に炭素の放射性同位元素である炭素11(11C)で標識した二酸化炭素を与える。11Cは光合成によって同化産物となり葉から根へ転流される。開放型PETを用いて、干ばつ状態および再給水後のイネ体内の11C標識された光合成産物の転流を可視化する(図1)。
- X線CTによる根の形態構造画像と、PETによる光合成産物の転流画像を重ね合わせることで、光合成産物がどの根に分配されるかを可視化する(図2)。
- 干ばつ状態では、最も深くまで伸びた種子根に光合成産物がより多く分配されている。再吸水後は、光合成産物の分配先が種子根から横方向へ伸長する冠根に素早く切り替わっている(図2)。イネには土壌の水分状態の変化に対して素早い適応機構を持つ品種が存在する。
成果の活用面・留意点
- 今回の実験では海外の水稲「Dro1-NIL」を用いたが、国内の品種においても同じメカニズムが存在するか、確認する必要がある。
- 国内でPET-CT技術を構築した機関は限られるため、より多くの検証データを得るうえで、共同研究などを通して技術の普及が今後必要である。
- 転流様式を制御する遺伝子を同定・改変することで、干ばつ耐性作物の開発につながる。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 交付金、文部科学省(戦略的創造研究推進事業)、内閣府(ムーンショット型研究開発事業)
- 研究期間 : 2019~2022年度
- 研究担当者 : 三好悠太(量研)、相馬史幸、尹永根(量研)、鈴井伸郎(量研)、野田祐作(量研)、榎本一之(量研)、長尾悠人(量研)、山口充孝(量研)、河地有木(量研)、吉田英治(量研)、田島英朗(量研)、山谷泰賀(量研)、久家徳之、寺本翔太、宇賀優作
- 発表論文等 : Miyoshi Y et al. (2023) Front. Plant Sci. 13:1024144
doi.org/10.3389/fpls.2022.1024144