要約
「関東IL31号」はごま葉枯病抵抗性遺伝子bsr1をカドミウム低吸収性品種「コシヒカリ環1号」に導入した系統である。「関東IL31号」はごま葉枯病抵抗性とカドミウム低吸収性を併せ持ち、出穂期、収量性、炊飯米の食味などの農業特性は「コシヒカリ」とほぼ同程度である。
- キーワード : イネ、ごま葉枯病抵抗性、bsr1、カドミウム低吸収性、コシヒカリ環1号
- 担当 : 作物研究部門・スマート育種基盤研究領域・オーダーメイド育種基盤グループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 研究成果情報
背景・ねらい
コメ由来のカドミウム摂取量を減らすために、カドミウム低吸収性水稲品種の開発は有効な手段である。これまでカドミウム低吸収性遺伝子osnramp5-2を持つ「コシヒカリ環1号」が開発されているが、この遺伝子はマンガンの吸収も抑制するため、特にマンガン濃度の低い砂質土壌で「コシヒカリ環1号」を栽培すると、「ごま葉枯病」に対する罹病性が増加する。「ごま葉枯病」の抑制対策として、土壌へのマンガン資材の施用は有効だが、資材コストが高く(約18000円/10a)、効果の持続性の問題もある。本研究は、ごま葉枯病抵抗性遺伝子bsr1を「コシヒカリ環1号」に導入し、ごま葉枯病抵抗性とカドミウム低吸収性を併せ持つ系統を作出する。
成果の内容・特徴
- 「関東IL31号」は、インド型品種「Tadukan」に由来するごま葉枯病抵抗性遺伝子bsr1を戻し交配によりコシヒカリに導入した準同質遺伝子系統「和3663」と「コシヒカリ環1号」を交配し、育成された系統である(図1)。
- 「関東IL31号」はごま葉枯病抵抗性が"中"であり(図2)、「コシヒカリ環1号」("弱")および「コシヒカリ」("やや弱")よりごま葉枯病抵抗性を示す。
- 「関東IL31号」はカドミウムをほとんど吸収せず(図3)、「コシヒカリ環1号」と同程度である。
- 「関東IL31号」は「コシヒカリ」と比較し稈長がやや短いが、出穂期、収量性、炊飯米の食味などの農業特性は「コシヒカリ」とほぼ同程度である(表1)。
成果の活用面・留意点
- 「関東IL31号」を交配母本として利用することにより、ごま葉枯病抵抗性を有するカドミウム低吸収性品種の開発が期待できる。
- ごま葉枯病抵抗性遺伝子(bsr1)は病気の感染を完全に防ぐものではなく、感染した病気の進展を抑えるように働く遺伝子である。
- 「関東IL31号」はカドミウム低吸収性遺伝子osnramp5-2の作用によりマンガンの吸収も抑制されているため、マンガン欠乏による生理障害の発生に注意する。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 交付金、農林水産省(農林水産分野における気候変動対応のための研究開:温暖化の進行に適応する生産安定技術の開発)
- 研究期間 : 2012~2023年度
- 研究担当者 : 溝淵律子、大橋里美(三重県農研)、松本憲悟(三重県農研)、太田雄也(三重県農研)、山川智大(三重県農研)、安部匡、石川覚、大森伸之介、竹内善信、後藤昭俊、松下景、池ヶ谷智仁、金咲耶花、鈴木信裕、山内歌子、安藤露、佐藤宏之
- 発表論文等 :
- Mizobuchi R. et al. (2024) Breed. Sci. 74:462-467
- Matsumoto K. et al. (2021) Breed. Sci. 71:474-483
- 松本ら(2016)育種学研究、18:103-111