気象データを用いて擬似的に構築した未来の温暖化環境における水稲環境応答

要約

気象データを再現した制御が可能な人工気象器を用いて、気候予測シナリオに基づいた擬似的な世紀末の温暖化環境を構築し、水稲品種の環境応答を解析する。品種の生育や白未熟粒発生に及ぼす影響を理解することが可能となる。

  • キーワード : 水稲、人工環境、形質情報取得、高温、地球温暖化
  • 担当 : 作物研究部門・スマート育種基盤研究領域・育種ビッグデータ整備利用グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

温室効果ガスの上昇に伴う高温と高濃度CO2は作物生産を不安定にし、食料供給に大きな影響を与えると言われている。水稲作において、高温と高濃度CO2の両方が重なった21世紀末の温暖化した環境を現在の野外で実現することは困難であるため、生育途中の発育状態、品質や収量に対する影響を明らかにすることはできていない。そこで、本研究は、農研機構が開発した、季節変化を含む野外の気象データを再現した環境制御が可能な人工気象器(栽培環境エミュレータ)を用いて、地球温暖化が進行した21世紀末の未来環境を擬似的に構築し、水稲品種の環境応答を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 温暖化前の基準年は、気象庁から公開されている1990年代(10年分)の平均値データを用いる。21世紀末の温暖化環境の擬似的な構築においては、国際的な標準として用いられてきた気候予測シナリオ(RCP)の2種を反映させ、気温上昇のみを上乗せした環境と気温及びCO2濃度を上乗せした環境を設定することが可能である(表1)。
  • 本州の異なる地域で育成された5品種(あきたこまち、ひとめぼれ、コシヒカリ、日本晴、ヒノヒカリ)を、表1の5種の環境下で栽培した場合、RCP8.5_CO2環境において、全ての供試品種の生育が著しく早まり、到穂日数の短縮が進む(図1)。
  • 登熟期の高温により増大することが知られている白未熟粒比は、RCP8.5環境で現れた表現型よりも、CO2濃度を上乗せしたRCP8.5_CO2環境において、さらに高まる傾向にある(図2)。

成果の活用面・留意点

  • 各地点で1時間毎に取得された気象データの利用が可能である。
  • 未来の温暖化環境は気候予測シナリオの更新に対応した改変が可能である。
  • 野外試験では難しい高温と高CO2濃度の共存させた試験が可能であり、品種の高温に対する反応性が高CO2環境下でどのような影響を受けるのかを把握することができる。
  • ポット栽培による人工環境下での評価の為、野外環境と比べて光質、土壌、栽植密度などは実際の栽培環境とは異なる。そのため、模擬的な人工環境下で得られる環境応答やその品種間差は品種の性能に関する特徴を表すものの、通常の圃場評価で行われる評価結果と同等に扱うことはできない。

具体的データ

その他

  • 予算区分 : 交付金、農林水産省(戦略的プロジェクト研究推進事業:民間事業者等の種苗開発を支える「スマート育種システム」の開発)、PRISM
  • 研究期間 : 2020~2024年度
  • 研究担当者 : 伊藤博紀、和田楓、米丸淳一、山下寛人(静岡大)
  • 発表論文等 :
    • Itoh H. et al. (2024) Proc. Nath. Acad. Sci. U.S.A. 121(20):e2316497121
    • 伊藤ら「人工気象装置及び人工気象システム」特開2023-105946(2023年8月1日)