茎葉処理除草剤ベンタゾンによるダイズの薬害の品種間差を判別するDNAマーカーの開発

要約

ベンタゾン液剤は広葉雑草の防除に利用される茎葉処理除草剤であるが、ダイズに対する薬害には品種間差がある。品種間差の原因である水酸化酵素CYP81E22および転写因子GRAS SCL14をコードする遺伝子の多型情報を利用することで、品種育成でのマーカー選抜が可能となる。

  • キーワード : ダイズ、ベンタゾン、薬害、マーカー選抜、水酸化酵素、転写因子
  • 担当 : 作物研究部門・畑作物先端育種研究領域・畑作物先端育種グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

日本におけるダイズ栽培では、雑草との競合による収量低下や、機械収穫時の雑草混入による外観品質の劣化を防ぐため、効果的な雑草管理は不可欠である。しかし、生育期に適用可能な茎葉処理除草剤としてベンタゾン液剤が実際に広く使用されている一方で、その適用に伴う薬害には顕著な品種間差異が認められる。そこで、本研究では、ベンタゾン液剤への感受性に関する遺伝的要因を解明し、育種選抜に資するDNAマーカーを開発することを目的とする。

成果の内容・特徴

  • 薬剤耐性は、「ヒメシラズ」、「福井白」、「矢作」等枯死に至る"弱"、「タチユタカ」、「KS1034」、「白疏太」等激しい薬害により収量が低下する"中"、「フクユタカ」や「サチユタカ」等ほとんど薬害を生じない"強"に分類される(図1)。
  • 薬剤耐性"弱"の原因遺伝子は16番染色体に座乗する水酸化酵素CYP81E22をコードする遺伝子(以下、CYP81E22遺伝子)で、第2エキソンにおける1塩基欠失によりフレームシフトが生じ、早期終止コドンが発生することで、タンパク質は不完全な構造となり、解毒機能が喪失する(図2A)。
  • 薬剤耐性"中"の原因遺伝子は11番染色体に座乗する転写因子GRAS SCL14をコードする遺伝子(以下、GRAS SCL14遺伝子)で、第1エキソンにおける1塩基置換によりグルタミン酸が終止コドンに置換され、C末端の重要なドメインが欠失することで転写因子としての機能が失われ、解毒機能が低下する(図2B)。
  • GRAS SCL14遺伝子野生型の「サチユタカ」とGRAS SCL14遺伝子変異型の「タチユタカ」でCYP81E22遺伝子の発現量を比較したところ、薬剤処理後2時間後のサンプルを除き、CYP81E22遺伝子の発現量がいずれも「タチユタカ」で有意に低いため、GRAS SCL14遺伝子はCYP81E22遺伝子発現の制御に関与する(図3)。
  • "弱"および"中"を判別することができるDNAマーカー、16G149300ARMSおよび11G138300ARMSを開発し、コアコレクション192品種や交配母本としての利用されている"中"の感受性品種で検証した結果、遺伝子型とベンタゾン液剤による薬害反応の一致率は100%であり、育種選抜に対して有効である(表1)。

成果の活用面・留意点

  • CYP81E22遺伝子およびGRAS SCL14遺伝子はいずれも劣性で"弱"や"中"の表現型を示すため、ヘテロ型では"強"に近い表現型を示す。開発したDNAマーカーは共優性であるため、育種選抜過程で劣性型だけでなく、ヘテロ型の個体も確実に排除することが可能となる。
  • CYP81E22遺伝子およびGRAS SCL14遺伝子以外の未解明の品種間差に関わる因子が存在する可能性もあるため、育成系統の特性評価にあたっては実際の圃場試験で薬害の程度を確認することが望ましい。

具体的データ

図1 薬剤耐性

その他

  • 予算区分 : 交付金、SIP
  • 研究期間 : 2010~2025年度
  • 研究担当者 : 加藤信、横田侑子、石本政男、加賀秋人、鈴木倫太郎、山田哲也、佐山貴司、菊池彰夫、松本直、小松邦彦、大木信彦、穴井豊昭(九州大)
  • 発表論文等 :
    • Kato S. et al. (2020) Theor. Appl. Genet. 133:2105-2115
    • Kato S. et al. (2025) Theor. Appl. Genet. 138:292