要約
本研究では、育種目的に合った系統を効率良く選び出すための研究材料として、遺伝資源の遺伝的な多様性を保ちつつ厳選した集団「NARO Open Rice Collection(NRC)」を構築し、そのゲノム情報を明らかにした。NRCを材料に用いることで、出穂期などの制御遺伝子の検出も可能である。
- キーワード : イネ遺伝資源、ゲノム解析、多様性、開花期、種子サイズ
- 担当 : 作物研究部門・作物デザイン研究領域・作物遺伝子機能評価グループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 研究成果情報
背景・ねらい
様々なニーズに応えた品種の育成には既存の品種だけでは不十分であり、これまで利用されてこなかった、遺伝的に多様な遺伝資源から有望系統を見つけ出し、その特性を活用することが望まれている。一方で、NARO遺伝資源センターだけでも2.4万系統のイネ遺伝資源が保管されているように、遺伝資源はその系統数の膨大さゆえ、有用な遺伝子を効率的に探索する方法も求められている。これまでにイネの遺伝的な多様性を維持したまま集団サイズをコンパクトにした「コアコレクション」として世界のイネコアコレクション(WRC)69系統が作られたが、集団サイズが小さいことなどから、原因遺伝子の同定には不十分であった。そこでWRCを含みながら系統数を拡大したイネコレクションであるNRCを構築し、そのゲノム配列と集団内の多型情報を抽出することによって、有用な遺伝子を迅速に特定できる基盤整備を行なった。これにより育種に有用な系統や遺伝子をゲノム情報から選抜できるようになる。
成果の内容・特徴
- 既存のイネコアコレクションであるWRC(図1の黒点)を含み、系統数を623に拡大したNRCを作り、これらの高精度ゲノム情報を取得した。この623系統は、図1に示したようにWRCの多様性をバランス良く拡大しており、世界のイネの遺伝的多様性を網羅していると考えられる(図1)。
- NRCの出穂期を用いたゲノムワイド関連解析(GWAS)から、これらの形質に関わる遺伝子領域の検出を行ったところ、69系統より成る既存のWRCでは検出できなかった出穂期制御遺伝子の存在領域を同定できた。このことから、NRCはGWASによる有用な遺伝子の検出に適した集団である(図2)。
- ゲノム解析によって抽出した集団内の多型情報は、高度分析センターが開発したウェブアプリ「TASUKE+」に提供し、NRC系統間の配列の違いを可視化し、自由に閲覧できるようにした。TASUKE+では効果の大きい配列の違いを赤色、中程度のものを橙色、小さいものを水色で表示され、例として種子長の制御に関連するGS3遺伝子の配列の違いを示している(図3)。(https://agrigenome.dna.affrc.go.jp/tasuke/NARO_RiceCollection/)
成果の活用面・留意点
- 本成果で構築したNRCは農研機構遺伝資源センターから種子の提供が可能である。またゲノム情報は国立遺伝学研究所のデータベース(DDBJ)に、形質情報は論文情報(https://doi.org/10.1111/tpj.70152)に登録済みであるため、自由に利活用が可能である。
- 出穂期のように多くの遺伝子によって制御されている形質についても、NRCを用いたGWASによって関連遺伝子が同定できたことから、他の農業形質についても同様の成果が期待できる。ただしNRCは出穂期などが多様であることから、栽培地域によっては種子が収穫できない系統もある点は、注意が必要である。
- ウェブアプリ「TASUKE+」にNRCの多型情報を掲載したことにより、NRCの多型情報から、目的の遺伝子型を持つ系統を迅速に選抜できる。また、WRC69系統の中から特徴的な形質を示す系統を見つけた後に、NRCのジャポニカ集団205系統またはインディカ集団418系統のサブグループで遺伝解析することが可能である。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 農林水産省(ムーンショット型農林水産研究開発事業)
- 研究期間 : 2020~2024年度
- 研究担当者 : 田中伸裕、Matthew Shenton、川原善浩、江花薫子
- 発表論文等 : Tanaka N.et al. (2025) The Plant Journal 122:e70152
doi:10.1111/tpj.70152