要約
炭素動態を非破壊で可視化できるPET-CT技術により、ダイズの根粒の有無が干ばつからの回復期の光合成産物の分配に影響することを明らかにした。ダイズの環境適応機構の解明につながる本成果は、干ばつに強いダイズ品種の選抜や栽培管理への応用が期待できる。
- キーワード : ラジオアイソトープ、イメージング、非破壊計測、干ばつ、ダイズ
- 担当 : 作物研究部門・作物デザイン研究領域・作物デザイン開発グループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 研究成果情報
背景・ねらい
地球規模の環境変動により、世界中の農地で干ばつが発生している。作物の根系形態は干ばつ耐性や栄養吸収に重要な形質であるが、地中にある根の形態や生理機能を可視化することは困難である。ダイズは葉で合成した光合成産物を根粒へ転流しており、また根粒菌との共生がダイズの干ばつ耐性を向上させることが報告されているが、転流される根や根粒の空間的な位置情報や、干ばつに応答した転流様式の経時変化については未解明である。これまでにラジオアイソトープを利用したPET(Positron emission tomography)とX線CT(Computed Tomography)を融合した画像解析により根の生長エネルギー源である光合成産物の動態を可視化する技術(作物研究部門研究成果情報、2023年)を量子科学技術研究開発機構(QST)と共同で開発し、光合成産物の転流様式を非破壊かつ経時的に可視化することに成功した。本技術をダイズに適用し、根粒の有無が干ばつ下のダイズの光合成産物の転流様式に影響するかを明らかにする。
成果の内容・特徴
- 根粒菌を接種させたダイズ、および未接種のダイズをポット栽培する。24日間生育させたダイズを5日間の水切りにより干ばつ処理に供する。
- 根系形態をX線CTで撮影後、干ばつ処理したダイズの葉に炭素の放射性同位元素である炭素(11C)で標識した二酸化炭素を与える。11Cは光合成によって糖となり根へ転流される。PETを用いて、干ばつ下、再灌水直後および再灌水4時間のダイズ体内の11C標識された糖の動態を可視化する(図1)。
- 2種類のダイズに対して、X線CT画像(図2)と、PET画像を重ね合わせることで、糖がどの根・根粒に転流されるかを可視化する(図3)。根粒が着生したダイズでは干ばつ中は地上部から近い根や根粒に光合成産物を転流するが、再吸水後は下層の根粒につながる根への転流が促進する(図3)。一方、根粒無しダイズでは、干ばつ下において下層の根に光合成産物を転流し、再吸水後にも大きな変化は認められない(図3)。本技術により、土壌水分含量に応答した光合成産物の転流様式の変化を非破壊で可視化でき、根粒着生の有無によって変化する可能性が示された。
成果の活用面・留意点
- ダイズの品種や根粒種の違いが転流様式に影響するかは今後検証する必要がある。
- PET-CT技術を実施可能な機関は限られるため、育種等に利用するためには安定同位体を用いた元素分析等の別の手法を検討する必要がある。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 交付金、内閣府(ムーンショット型研究開発事業)
- 研究期間 : 2020~2024年度
- 研究担当者 : 三好悠太(QST)、寺本翔太、相馬史幸、尹永根(QST)、鈴井伸郎(QST)、野田祐作(QST)、榎本一之(QST)、河地有木(QST)、Joseph Peller(ワーゲニンゲン大学)、吉田英治(QST)、田島英朗(QST)、山谷泰賀(QST)、宇賀優作
- 発表論文等 : Miyoshi Y. et al. (2025) Environ. Exp. Bot. 238
doi.org/10.1016/j.envexpbot.2025.106235