自家和合性と自家摘果性を併せ持つ中生のニホンナシ新品種「ゆつみ」

要約

「ゆつみ」は9月上旬に収穫可能な中生の赤ナシで、自家和合性と自家摘果性を併せ持つニホンナシ新品種候補である。授粉用花粉の確保が難しい状況下においても、自家の花粉で安定生産が可能である。

  • キーワード : ニホンナシ新品種、自家和合性、自家摘果性、省力栽培、赤ナシ
  • 担当 : 果樹茶業研究部門・果樹品種育成研究領域・落葉果樹品種育成グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 普及成果情報

背景・ねらい

ニホンナシ栽培においては、人工授粉や摘果等の結実管理作業に年間労働時間の約4分の1に相当する10アールあたり約70時間が必要となっており、これら作業の省力化が可能な品種の育成が求められている。これまで農研機構では、人工授粉作業の省力化が可能な自家和合性品種として「なるみ」を、摘果作業の省力化が可能な自家摘果性品種として「あきあかり」や「凜夏」を育成してきたが、これら2つの特性を併せ持ち、人工授粉作業と摘果作業の両方の省力化が可能な品種はこれまで育成されていない。自家和合性と自家摘果性を併せ持つことから、本品種の導入による結実管理作業の大幅な省力化が期待できる。

成果の内容・特徴

  • 2004年に自家和合性を持つ中生の選抜系統であるナシ筑波51号に、晩生で自家摘果性を持つ選抜個体162-29を交雑して育成した品種である。交雑で得られた実生集団について、2005年にDNAマーカーを用いたS遺伝子型の確認を行い、自家和合性となるS遺伝子型を有する個体の幼苗選抜を行っている。2006年に選抜圃場に定植し、自家和合性と自家摘果性を併せ持ち、果実品質に優れることから2014年に一次選抜している。2015年からナシ筑波64号の系統名で、ナシ第9回系統適応性検定試験に供試してその特性を検討した結果、2022年度の同試験成績検討会において新品種候補となり、2023年7月4日に品種登録出願を行い、同年11月15日付で出願公表されている。
  • 樹勢は"弱"~"やや弱"で、短果枝の着生は"多"、えき花芽の着生は"やや少" である。育成地(茨城県つくば市)における開花期は「幸水」と同時期、収穫期は9月上旬で「豊水」より3日程度早い(表1)。S遺伝子型はS3S4smで自家和合性の遺伝子型を持ち、自家受粉で結実可能である。加えて満開1か月後の果そうあたりの幼果数が3.0程度と少なく、早期落果の程度が大きく落果時期が早い特性である自家摘果性を持つ(図1)。
  • 7~8年生樹における1樹当たり収量は、「幸水」より多く、「豊水」よりやや少ない。果実の大きさは533gで「幸水」より大きく、「豊水」と同程度である。果肉硬度は「幸水」、「豊水」より低く果肉は軟らかい。果汁の糖度は13.4%と「幸水」、「豊水」よりも高く、酸度はpH5.08で食味上ほとんど酸味を感じることはなく、良食味である。心腐れの発生は見られず、年次によりみつ症が発生する場合があるが、その程度は軽微である(表2、図2)。

普及のための参考情報

  • 普及対象 : ニホンナシ生産者
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等 : 農研機構を含む全国36場所で試作栽培試験を行った結果、自家和合性と自家摘果性を併せ持ち、結実管理労力の省力化が期待できることが評価された。「豊水」と同時期に収穫される、結実管理労力の省力化が可能な良食味の中生品種として普及が期待される。
  • その他 : 花芽の枯死や発芽不良が九州地方を中心に一部の場所で認められており、「幸水」等でこれらの発生が問題となっている地域に導入する際には注意が必要である。新梢の発生が少なくその伸びも悪いことから樹冠拡大に時間を要するため、早期多収には栽植密度を高めにする等の対策が必要である。なお7~8年生以降は「幸水」と同等の収量が見込める(表2)。また、新梢が太く曲げづらいため、棚面への結果枝の配置の際には、夏季誘引や捻枝等により枝の折損を防ぐ必要がある。自家和合性と自家摘果性を併せ持つことから、人工授粉作業と予備摘果作業の省略により、結実管理作業の3割以上の省力化が期待できるほか、授粉用花粉の確保が難しい状況下においても、自家の花粉で安定生産が可能である。 苗木販売は、供給体制が整い次第開始する予定である。

具体的データ

表1 「ゆつみ」の育成地(茨城県つくば市)における樹体特性,図1 「ゆつみ」および主要品種等の持つ結実特性,表2 「ゆつみ」の育成地(茨城県つくば市)における果実特性,図2 「ゆつみ」の結実状況

その他

  • 予算区分 : 交付金
  • 研究期間 : 2004~2022年度
  • 研究担当者 : 髙田教臣、齋藤寿広、西尾聡悟、加藤秀憲、寺上伸吾、澤村豊、竹内由季恵、平林利郎、佐藤明彦、土師岳、尾上典之、今井篤
  • 発表論文等 : 髙田ら「ゆつみ」品種登録出願公表第36942号(2023年11月15日)