要約
DNA 抽出、PCR 法による品種特異的なDNAマーカーの増幅、DNA クロマト紙による判別の 3 工程で、海外での権利侵害が懸念されるカンキツ新品種を、主要なカンキツ品種の中から、簡易迅速に識別する手法である。
- キーワード : DNA品種識別、育成者権、カンキツ類、果実、登録品種
- 担当 : 果樹茶業研究部門・果樹品種育成研究領域・果樹茶育種基盤グループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 普及成果情報
背景・ねらい
近年、国産農産物の輸出拡大に向けた取り組みが進む一方、国内で育成された新品種の穂木が海外へ流出し、無断栽培されていることが顕在化している。穂木の海外流出は、流出国での果実の流通に加え、第三国や日本への逆輸出のリスクにも繋がるため、2022年4月に改正種苗法が完全施行され、登録品種の育成者権者は、新品種を持ち出しできる国や地域を制限できるようになった。一方、水際での持出阻止や輸入差し止めには、簡易迅速に権利侵害を立証する必要がある。
そこで、本研究では、カンキツ新品種「あすみ」等を、簡便かつ特異的に識別するDNA検査技術を開発する。
成果の内容・特徴
- 本技術は、カンキツ8品種を特異的に識別できる新規開発のDNAマ―カーを利用して、①果実、葉、枝等からのDNA 抽出、②PCR 法による増幅、③DNA クロマト紙による判別の 3 工程で、カンキツ新品種を特異的に識別するものである(表1、図1)。
- 国内で生産量の多い主要なカンキツ26品種の中(表1)から、農研機構育成の「あすみ」、「璃の香」及び、愛媛県農林水産研究所育成の「愛媛果試第28号」(商標名:紅まどんな)、「媛小春」などの品種を、それぞれ特異的に検出する。
- PCR増幅後の反応液を展開液と混合し、DNAクロマト紙に浸漬すると、15分以内に青色のバンドが検出され、バンドパターンにより陽性と陰性を判定する。例えば「GenCheck®あすみ」では、表1の26品種中、「あすみ」検体のみで陽性の3本の青色バンドが検出される(図2)。
- 本技術は、「DNA 品種識別技術の妥当性確認のためのガイドライン」(農林水産省輸出・国際局知的財産課)に基づいた妥当性試験により再現性と安定性が確認され、PCR増幅用プライマー混合液、DNAクロマト紙、展開液が含まれるキットとして令和5年12月現在「GenCheck® あすみ」、「GenCheck® 璃の香」、「GenCheck® 愛媛果試第28号」、「GenCheck® 媛小春」の4種類が市販されている(図3)。
普及のための参考情報
- 普及対象 : 育成者権者、税関、種苗管理センターなどの品種検査機関。
- 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等 : 各キット年間10キット。
- その他 : 「DNA 品種識別技術の妥当性確認のためのガイドライン」(農林水産省輸出・国際局知的財産課)に基づいた妥当性試験により再現性と安定性が確認された本技術のマニュアルは、農研機構ホームページよりダウンロード可能で、登録品種の偽装表示抑止、税関による侵害物品の水際取締りなどに有効である。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 交付金、農林水産省(農林水産研究推進事業:品種識別技術の開発)
- 研究期間 : 2019~2023年度
- 研究担当者 : 遠藤朋子、岡本充智(愛媛県農研)、門田有希(岡山大)、進藤明子(岡山大)、竹内朋幸(株)ファスマック)、重松幸典(愛媛県農研)、奥貞丈博(愛媛県農研)、高崎一人(株)ファスマック)、藤井浩、島田武彦
- 発表論文等 :