要約
「紅つるぎ」は高密植、省力栽培が期待できるカラムナー性のリンゴ新品種候補である。中生の収穫で糖度が高く、食味は既存品種並みに優れる。側枝が極端に短く直立するため円筒型(カラムナー)の樹姿となり、樹冠占有面積が小さく単純な樹形での果実生産を可能とする。
- キーワード : リンゴ新品種、カラムナー、高品質、中生
- 担当 : 果樹茶業研究部門・果樹品種育成研究領域・落葉果樹品種育成グループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 普及成果情報
背景・ねらい
わが国の農業従事者は減少し、リンゴの栽培面積も減少している。一方、国産リンゴの販売価格は上昇基調にあり、需要を満たすために生産基盤の強化が望まれるが、リンゴの栽培は労働集約的であり、果実生産システムの抜本的な改善が望まれている。「McIntosh」の枝変わりである「Wijcik」がもつカラムナー性(側枝が極端に短く円筒型の樹姿となる特性)は一般的なリンゴがもつ分枝型の樹姿と異なり省力栽培、機械化などスマート農業に適する特徴として期待されているが、既存品種並みの果実品質を示すカラムナー性のリンゴ品種は今まで育成されていなかった。そこで、カラムナー性をもち食味に優れたリンゴ品種を育成する。
成果の内容・特徴
- 2005年に果樹茶業研究部門盛岡研究拠点において、早生品種の「さんさ」にカラムナー性を有する選抜系統の5-12786(「ふじ」×8H-2-26)を交雑して育成した品種である。交雑で得られた実生集団については、2006年にDNAマーカーを用いてカラムナー性を示す個体の幼苗選抜を行っている。2015年から2022年まで系統番号「リンゴ盛岡74号」としてリンゴ第6回系統適応性検定試験に供試した結果、新品種候補として決定された後、2023年8月31日に品種登録出願、3月19日に公表された品種である。
- 樹姿は直立の円筒型(カラムナー)で、樹勢は"中~やや強"、短果枝の着生は"やや多~多"である。開花期は5月中旬で、「千秋」と同時期である。S遺伝子型はS3S5であり、「つがる」、「ふじ」などの主要品種とは交雑和合性である。果実の成熟期は10月上旬で「千秋」と同時期に成熟する。裂果の発生率は0.2%程度でほとんど発生しない。後期落果の程度は"無~少"、斑点落葉病には抵抗性である(表1、図1)。
- 果皮は"濃赤色"で着色しやすく、さびの発生は少ない。果実重は330g程度、果肉硬度は14.6lbs、肉質、果汁は「千秋」、「シナノスイート」と同程度である。糖度は14.0%で「千秋」よりやや高く、酸度は0.35g/100mlで「シナノスイート」と同程度である。糖度が高く、適度な酸味で食味は優れる。果実の日持ち(20°C下での品質保持日数)は「千秋」と同程度である(表2、図2)。
- カラムナー性の祖先品種である「Wijcik」(1986年導入)、カナダからの導入系統であり「紅つるぎ」の母本であるカラムナー性の「8H-2-26」(1988年導入)との比較では、世代の更新、育種選抜の結果、より糖度は高く、酸味は少なく改善されている(図3)。「紅つるぎ」の糖度、糖酸比(甘味と酸味のバランス)はともに現在の主要品種と同等である。
- 一般的なわい化密植栽培圃場(例:図4A)における「紅つるぎ」の若木(JM7台木)の収量は1樹当たり22.5kgであり、「千秋」の33.8kg、「シナノスイート」の43.9kgよりも少ないが、カラムナー性のため樹冠占有面積を「千秋」、「シナノスイート」の1/4以下とすることが可能であった(表1、図1)。このため樹間を半分とした密植(樹間1.25m、列間4.0m、200本/10a)ができる。ここから算出される若木の単収は4.5t/10aであり、「シナノスイート」(4.4t/10a)と同等以上の収量が見込まれる。
普及のための参考情報
- 普及対象 : リンゴ生産者
- 普及予定地域・普及予定面積:リンゴ栽培が可能な地域・100ha。
- その他 : 苗木販売は品種登録後に供給体制が整い次第、提供開始する予定である。花芽の着生が多く着果過多になる場合は、当年の果実品質、翌年の花芽の着生に影響するので摘花、摘果を重点的に行う。果梗が短い品種特性があり着色管理のための玉回しはできないことから、全面着色は難しい(図2右)。列間を縮小した高密植栽培(図4B: 樹間1.25m、列間3.0m、266本/10a)にすることで更なる単収の向上(4.5t/10a以上)が期待される。参考として我が国のリンゴ栽培における平均的な単収は2.2t/10aと報告されている(農林水産省:平成21~30年営農類型別経営統計)。分枝型の品種と比べてコンパクトで枝の伸長が少なく、単純な樹形の維持が可能であり(図5)、管理作業の省力化、機械化への高い適用性が期待される。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 交付金、農林水産省(食料安全保障強化に向けた革新的新品種開発プロジェクト)
- 研究期間 : 2005~2023年度
- 研究担当者 : 澤村豊、森谷茂樹、阿部和幸、岡田和馬、清水拓、岩波宏、古藤田信博(佐賀大)、土師岳、高橋佐栄、守谷友紀、根角博久、堀礼人、馬場隆士
- 発表論文等 : 澤村ら「紅つるぎ」品種登録出願の番号第37015号(2023年8月31日)