要約
ゲノムワイドDNAマーカーの遺伝子型情報を利用することで、従来法よりも正確に交配組合せの近親交配の程度(近交度)を推定できる。近交度が高いほど、交雑実生の果実重、収量、樹勢が低下し、結実樹齢が遅延する。
- キーワード : カキ、果樹、近親交配、収量、RAD-seq
- 担当 : 果樹茶業研究部門・果樹品種育成研究領域・落葉果樹品種育成グループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 研究成果情報
背景・ねらい
動植物において、類縁関係が近いもの同士の交配(近親交配)により生じた個体では、環境への適応能が低下する現象、「近交弱勢」がしばしば観察される。完全甘ガキの品種改良では近縁な完全甘ガキ同士を近親交配してきた結果、近交弱勢による収量性低下が問題となっており、収量性の優れる完全甘ガキ品種が望まれている。これまでの研究では、果実重が近親交配により減少することが明らかになっているが、他の形質に対する影響については未解明のままである。従来、交配組合せの近親交配程度(近交度)を推定するには両親の家系情報のみを用いていた。しかし、品種育成の基盤となる在来品種をはじめとして、多くのカキは祖先情報が限られており、近交度を正確に評価することが難しい。この制約を解消するため、本研究では大量のゲノム情報を高速に解析できるddRAD-seq法を導入し、近交度を正確に推定する。これにより、果実重以外の収量関連形質に対する近親交配の影響を明らかにし、多収性品種の開発に寄与することを目指す。
成果の内容・特徴
- ddRAD-seq法により網羅的に解析したDNAマーカーを、隣接するマーカー間の連鎖不平衡を小さくする等の条件でフィルタリングし、日本のカキ育種上重要な親となっている47品種間の近交度推定に適した約1万箇所のゲノムワイドDNAマーカーを選んだ。
- 上記ゲノムワイドDNAマーカーの遺伝子型類似性や遺伝子座集団内の頻度から、47品種間の計1081組合せについて近交度が推定できる(図1)。
- 来歴が不明で従来法では近親交配でないとされる在来品種間中に、近交度が高いものが含まれる。また、中国品種と日本品種の組合せで近交度が低下する(図2)。
- 上記1081組合せのうち過去に実際に行った97交配組合せにおいて、近交度が高まるにつれて初結実時の果実重、収量、樹勢の低下、および結実樹齢の遅延が認められ、近交弱勢によりカキの収量性低下が生じていることが示される(図3)。
成果の活用面・留意点
- 収量性に関わる様々な形質のうち、果実重以外にも樹勢や結実樹齢が近親交配によって悪影響を受けることから、多収性品種育成を目指す際には近親交配を回避することが重要である。
- 家系の不明な品種についても、マーカーの遺伝子型の類似度等から近交度を推定できる。
- 47品種間の計1081組合せの近交度情報に基づいた育種計画の策定により、近親交配の回避が可能である。
- 今後、ゲノムワイドDNAマーカーの遺伝子型情報を取得する品種をさらに増やして近交度が低い組合せを推定することで、多収性を目標とした完全甘ガキ育種を効率的に進められる。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 交付金、文部科学省(科研費)
- 研究期間 : 2018~2022年度
- 研究担当者 : 尾上典之、河野淳、東暁史、松﨑隆介、永野惇(龍谷大)、佐藤明彦
- 発表論文等 : Onoue et al. (2022) Euphytica 218:125
doi:10.1007/s10681-022-03073-1