要約
リンゴ果実の成熟期における、表面色、地色、酸含量、みつ入り指数、デンプン消失指数の変化速度QCR(1日あたりの変化量)は、高温ほど小さいが、糖度および硬度のQCRは、気温に依存しない。気温とQCRの関係を表すモデルから、気候変動による果実の品質の変化を予測できる。
- キーワード : 酸含量、地色、デンプン消失、表面色、みつ入り
- 担当 : 果樹茶業研究部門・果樹生産研究領域・果樹スマート生産グループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 研究成果情報
背景・ねらい
園芸作物の品質はその商品価値決める重要な要素であるが、気候変動による将来の果実品質の変化は報告されていない。これは品質変化と気温の関係が定量化されていないことが要因の一つである。そこで、気温がリンゴ「ふじ」の品質に及ぼす影響を定量化するために、人工気象室(チャンバー)による温度処理実験と、これまでに、青森県産業技術センターりんご研究所および長野県果樹試験場において蓄積された栽培記録の解析を行い、気温と各品質指標の関係を表すモデルを開発する。
成果の内容・特徴
- ガラスチャンバーを用いて、リンゴのポット栽培樹を果実成熟期に温度処理すると、果実の表面色、地色、酸含量、みつ入り指数、デンプン消失指数(=5-デンプン指数)は、高温ほど小さくなる。これらの品質指標と気温との関係は、回帰直線により近似することができる(図1)。
- 糖度および硬度は、処理温度による影響が認められない。
- 青森県と長野県の約50年間の品質の記録においても、気温と、果実の表面色、地色、酸含量、みつ入り指数、デンプン消失指数、糖度および硬度の関係は、温度処理実験と同様の傾向がある。その直線回帰式のY切片には地域差があるが、傾きは温度処理実験と栽培記録との間で有意差はない。そのため、チャンバーにおける回帰直線の傾きと等しい傾きを持つ直線で、各地域の品質指数と気温の関係を近似することができる(図1)。
- 果実の発育日数(満開期から収穫期までの日数)が長くなると、果実の表面色、地色、みつ入り指数、デンプン消失指数、糖度は大きくなり、酸含量、硬度は小さくなる。
- 以上の結果から導出した以下の式により、満開D日後の各果実品質指数QrDを推定することができる(図2)。

ここでQr110は満開110日後の各果実品質指数である。QCRは各品質の変化速度(1日あたりの変化量)で満開d日後の日平均気温Tdの関数である。AcとBrは、温度と品質変化の関係(図1)における傾きと、地域ごとのY切片である。
- 収穫期の判定に使用される地色、表面色、デンプン消失指数のQCRは高温で小さくなるため、収穫期も気温の影響を受け変動する場合がある。糖度および硬度のQCRは気温の影響を受けないが、発育日数の変動を介して収穫期の糖度および硬度は気温の影響を受ける。
成果の活用面・留意点
- 気候変動の影響評価モデルとして活用できる。
- 「ふじ」以外の品種や、毎年の品質予測においてモデルを利用するには、より詳細な検討が必要である。
具体的データ

その他