パインアップルの酸度・糖度および開花期・収穫期を予測するモデル

要約

パインアップルの酸度は、収穫直前(収穫前10~20日間)の気温が低温ほど高く、この関係は線形で近似できる。糖度はより長い期間(収穫前70~120日間)の気温に反応し、23°Cが最も高い。発育速度は、25°C(出蕾~開花)または23°C(開花~収穫)以下において高温ほど大きい。

  • キーワード : 温暖化、果実品質、熱帯果樹、発育速度
  • 担当 : 果樹茶業研究部門・果樹生産研究領域・果樹スマート生産グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

沖縄県の農業にあって基幹作物の一つであるパインアップルは、植物ホルモン処理等により周年生産されているものの、収穫期に至る発育期間の長さや果実品質は、気温により大きく変化する。また、生食用だけでなく、缶詰やジュースなどの加工用の需要も多く、用途により求められる品質が異なる。近年の気候の変化は生産者が過去の経験から果実品質や収穫期を早期に推定することを難しくし、実需者にとっても、用途に応じた品質の果実を、計画的に調達することを困難にしている。一方、温暖化を背景に、亜熱帯・熱帯果樹の日本での生産地拡大が期待されている。新規に栽培を始める場合、高品質果実の生産を期待できる時期や品種を事前に予測してから生産計画を策定する必要がある。そこで、過去の栽培記録を解析し、糖度、酸度、収穫期を予測するためのモデルを開発する。

成果の内容・特徴

  • パインアップルの主力品種「N67-10」、「ソフトタッチ」、「ボゴール」および近年育成された「沖農P17」の収穫期における酸度は、収穫直前(収穫前10~20日間)の気温に大きく影響され、低温ほど高い(図1)。この直線回帰式は酸度を予測するモデルとして利用できる(表1)。
  • 収穫期における糖度は、より長い期間(収穫前70~120日間)の気温に反応し、23°C付近が最も高い(図1)。この2次回帰式は糖度を予測するモデルとして利用できる(表1)。
  • 気温と酸度・糖度の関係には、明確な品種差が認められ、気温が同じであれば、「N67-10」は他の品種と比べ、高酸度、低糖度となり、逆に「沖農P17」は低酸度、高糖度である(図1)。
  • 得られたデ-タの範囲では、気温と酸度・糖度の関係について、沖縄本島(名護市)、石垣島(石垣市)、宮古島(宮古島市)の間に地域差は認められない。
  • 出蕾期~開花期の発育速度は25°C以下において高温ほど大きいため、開花期はこの期間の平均気温が高いほど早くなる(図2)。開花期~収穫期の発育速度は23°C以下で高温ほど大きいため、収穫期はこの期間が高温ほど早い。この傾向は品種、地域、日長条件によらず認められる。
  • 出蕾期~開花期の日数と気温の関係から導いた以下の式より、品種ごとの開花期を予測できる。

    ここでDVRdは出蕾期からd日後の発育速度、Tdは出蕾期からd日後の日平均気温、Fは出蕾期から開花期までの日数であり、上限温度Tuは25°C、品種ごとに異なる係数aとbは表2に示した。
  • DVRdを開花期からd日後の発育速度、Tdを開花期からd日後の日平均気温、Fを開花期~収穫期日数、上限温度Tuを23°Cとすると、上記の式および係数aとb(表2)より収穫期を予測できる。

成果の活用面・留意点

  • パインアップル産地において、果実の収穫期や品質を予測する場合に活用できる。
  • 新規にパインアップルを導入する地域において、高品質果実を収穫できる期間・品種を推定することで、品種や作型の選択を場合に利用できる。

具体的データ

図1 「N67-10」と「沖農P17」の酸度・糖度と収穫前の平均気温と関係,表1 酸度および糖度を予測するモデル,図2 「N67-10」の出蕾期から開花期および開花期から収穫期までの日数と気温の関係,表2 出蕾期から開花期および開花期から収穫期までの日数を予測するモデルの係数

その他

  • 予算区分 : 交付金、農林水産省(イノベーション創出強化研究推進事業)、内閣府(沖縄振興特別推進交付金:気候変動対応型果樹農業技術開発事業)
  • 研究期間 : 2015~2023年度
  • 研究担当者 : 杉浦俊彦、紺野祥平、竹内誠人(沖縄県農研セ)、小林拓也(沖縄県農研セ)、大嶺悠太(沖縄県農研セ)、與那覇至(沖縄県農研セ)、正田守幸(沖縄県農研セ)
  • 発表論文等 :
    • Sugiura T. et al. (2023) Hort. J. 92:227-235
    • Sugiura T. et al. (2024) Hort. J. 93:6-14