キシュウミカン由来細胞質によるカンキツの雄性不稔性は細胞質と核の雄性不稔性関与領域が決定する

要約

キシュウミカン由来細胞質によるカンキツの雄性不稔性は、細胞質と核に存在する雄性不稔性関与領域の遺伝子型の組み合わせにより制御される。この情報を用いて、雄性不稔性実生が得られる交配組み合わせを予測し、雄性不稔性実生を早期に選抜することが可能になる。

  • キーワード : カンキツ、育種、雄性不稔性、細胞質、DNAマーカー
  • 担当 : 果樹茶業研究部門・カンキツ研究領域・カンキツ品種育成・生産グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

カンキツでは種なし品種のニーズが高いことから、交配育種による品種開発を効率的に推進させるため、種なし実生が得られる交配組み合わせを予測するとともに、これらの実生を幼苗の段階でDNAマーカーにより選抜する技術が求められる。そこで、カンキツで種なし化を引き起こす仕組みのひとつである雄性不稔性に着目し、雄性不稔性発現機構の解明に取り組むとともに、種なし形質を有する実生の選抜に利用可能なDNAマーカーの開発を行う。

成果の内容・特徴

  • 115の交配系統を用いたファインマッピングにより、核の雄性不稔性関与領域は第8染色体6,184,904bp-7,104,658bpの範囲であり、66個の遺伝子が存在すると予測される。また、これらの遺伝子のうち、Ciclev10030242とCiclev10030361には稔性を回復させる機能があると予測される(図1)。
  • 雄性不稔性関与領域内の3つのDNAマーカーにより(図1)、日本での育種に用いられている主要なカンキツ12品種の遺伝子型の組み合わせ(ハプロタイプ)を分析すると11種類(HT1-HT11)に分類される。さらに85品種/系統および3種の交配集団の解析から、これらのハプロタイプは、稔性回復能力の程度に基づく4タイプ(雄性不稔型、不完全雄性不稔型、不完全稔性回復型、稔性回復型)と機能不明型に類別される(表1)。なお、上述したCiclev10030242とCiclev10030361は稔性回復型ハプロタイプHT6に関与すると推察される(図1)。
  • 細胞質は正常型と雄性不稔型の2種類が存在するが、日本でのカンキツ育種に多用されるキシュウミカン由来細胞質は雄性不稔型である。キシュウミカン由来細胞質を有する品種/系統を母親とする交配集団では、父親と母親のいずれからも稔性回復型のハプロタイプを受け継がない実生が雄性不稔となる(図2)。
  • これらの情報を利用することにより、後代で雄性不稔性実生が出現する交配組み合わせと雄性不稔性実生の出現割合を予測することができる。また、雄性不稔性関与領域内のDNAマーカーにより、雄性不稔性交雑実生を芽生えの段階で選抜できる。これにより、圃場に定植して特性評価に供すべき交雑実生が種なしに限られるため、より効率的な品種開発が可能となる。

成果の活用面・留意点

  • 雄性不稔性関与領域を判別するDNAマーカーを用いて雄性不稔性の個体を選抜できるのはキシュウミカン由来細胞質を持つ交配集団のみである。
  • 上記マーカーはSSRを利用しているため、DNA断片を高い分離能での分析が必要である。そのため、キャピラリーシークエンサーによる分析が必要となる。
  • 雄性不稔関与領域のハプロタイプが不明なカンキツ品種を交配親に用いる場合は、DNAマーカーを用いてHT1~HT11のどれに当てはまるのかをあらかじめ解析する必要がある。
  • 上述したCiclev10030242とCiclev10030361については、稔性回復型ハプロタイプHT6への関与が示唆されるが、他のハプロタイプとの関連は今後の研究課題である。

具体的データ

図1 雄性不稔性関与領域の染色体座上位置,表1 主要カンキツの雄性不稔性関与領域におけるハプロタイプと機能型分類,図2 キシュウミカン由来細胞質を有する実生における雄性不稔性関与領域上のハプロタイプの組合せと1葯あたりの花粉数

その他

  • 予算区分 : 文部科学省(科研費)
  • 研究期間 : 2019~2023年度
  • 研究担当者 : 後藤新悟、藤井浩、濵田宏子、太田智、遠藤朋子、清水徳朗、野中圭介、島田武彦
  • 発表論文等 : Goto S. et al. (2023) Front. Plant Sci. 14:1163358
    doi:10.3389/fpls.2023.1163358