要約
「やぶきた」二番茶新芽から製茶した煎茶と釜炒り茶の荒茶では、冷水へのカテキン類浸出速度が異なる。浸出開始から数時間後のカテキン類の浸出率は、煎茶が釜炒り茶よりも高い。
- キーワード : 冷水浸出、煎茶、釜炒り茶、カテキン類、浸出率
- 担当 : 果樹茶業研究部門・茶業研究領域・茶品種育成・生産グループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 研究成果情報
背景・ねらい
緑茶に含まれる化学成分の浸出率は浸出温度により変化する。「水出し緑茶」と呼ばれる冷水浸出液では熱水よりも浸出しにくくなる化学成分があり、熱水浸出液と冷水浸出液では成分組成に明確な違いがある。緑茶は蒸し製と釜炒り製に大別されるが、国内では蒸し製である煎茶の生産が大部分を占める。カテキン類の熱水浸出率は、煎茶の方が釜炒り茶よりも高いことが知られているが、冷水の場合も同様に浸出率が変化するかは不明である。
そこで、本研究では「やぶきた」二番茶新芽から製茶した煎茶と釜炒り茶の荒茶を用いて冷水浸出液を調製し、製造方法の違いが冷水へのカテキン類の浸出に及ぼす影響を明らかにする。
成果の内容・特徴
- 試験に用いた煎茶と釜炒り茶は、「やぶきた」の二番茶新芽を摘採し、図1に示す工程で製造された荒茶である。HPLCにより分析した荒茶中の主要カテキン含量(表1)に、有意な差はない(t検定)。
- エピガロカテキン(EGC)およびエピガロカテキンガレート(EGCG)の浸出率は、浸出開始から2および6時間後では煎茶の方が釜炒り茶より高いが、24時間後では同程度となる(図2)。煎茶の冷水浸出液では、EGCの浸出率がEGCGより顕著に高く、釜炒り茶でも同様に高い(図2)。
- 煎茶では冷水浸出後に大部分の茶葉が開いているのに対し、釜炒り茶では完全に開いていない茶葉が多い(図3)。煎茶の茶葉には水が浸透し易く、比較的速やかに成分が浸出するのに対し、釜炒り茶では水が浸透し難く、成分の浸出が緩慢であると考えられる。
成果の活用面・留意点
- 国内生産の大部分を占める煎茶の方が、釜炒り茶よりも冷水浸出開始から数時間後のカテキン類の浸出率が高い。新たな飲用法として「水出し緑茶」が普及する中、冷水でも短時間でカテキン類が浸出する煎茶の特性により、海外で主流の釜炒り茶との差別化が図れる。
- 冷水浸出時間を延長することで、釜炒り茶も煎茶と同程度までカテキン類の濃度を高めることができる。ただし、微生物の繁殖等、衛生上の問題があるため、24時間以上の冷水浸出は避ける。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 交付金、農林水産省(農林水産研究推進事業:健康寿命延伸に向けた食品・食生活実現プロジェクト)
- 研究期間 : 2021~2022年度
- 研究担当者 : 野村幸子、物部真奈美、江間かおり、山下修矢、吉田克志、根角厚司
- 発表論文等 : 野村ら(2023)茶研報、135:19-28