チャの摘採計画策定支援システム

要約

製茶工場単位でのチャの摘採計画を策定できる本システムは、組み込まれた新芽生育モデルにより圃場ごとの収量と品質を予測し、製茶工場の一日当たりの生葉処理量を超えない範囲で、多数ある圃場の中から摘採すべき適切な圃場を選び出す作業を支援する。

  • キーワード : チャ、摘採計画、生育モデル、中性デタージェント繊維
  • 担当 : 果樹茶業研究部門・茶業研究領域・茶品種育成・生産グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

チャは新芽の生育が進むと収量が増加するが、摘採適期を過ぎると新芽の硬化が始まり品質が低下する。摘採したチャの新芽(以下、生葉)は、その日のうちに製茶工場で荒茶に製造されるため、製茶工場の一日の処理量を超えない量を、計画的に摘採する必要がある。近年の生産者の高齢化や後継者不足により、製茶工場の大型化や共同化とともに経営面積が増加する傾向にある。茶期を通して製茶工場当たりの収益を増やすためには、単価が高い品質の良好な荒茶を多く製造する必要があるが、日を追うごとに品質は変化し、収量が増加するため、多筆の圃場の最適な摘採日を決める作業は、複雑で困難である。そこで、本研究では生産現場における製茶工場における茶期を通した摘採計画を策定することを目的とし、圃場ごとの生葉の品質と収量を予測し、簡単な操作で製茶責任者が多筆圃場の摘採計画を変更できる「摘採計画策定支援システム」を開発する。

成果の内容・特徴

  • 摘採計画策定支援システムは、組み込まれた新芽生育モデルにより圃場ごとの収量と品質を予測し、製茶工場の一日当たりの生葉処理量を超えない範囲で、多数ある圃場の中から摘採すべき適切な圃場を選び出す作業をサポートするプログラムである。摘採予定日前に生葉の品質データを入力することで収量を再計算する機能を有し、オペレータの判断で随時摘採予定日を変更することができる(図1)。
  • 新芽生育モデルは、萌芽期からの日数を独立変数tとし、萌芽期からの新芽の生育程度(「新芽生育スコア」と定義)を従属変数f(t)とした関数で、両者の関係はロジスティック曲線で表現される(図2式1)。新芽生育スコアは被覆の有無や用途(リーフ用、ドリンク原料用)によって異なるため、モデルのパラメータは、過去に蓄積した各条件別のデータを用いてロジスティック曲線に適合させることにより求める(図3)。
  • 新芽生育スコアと単位面積当たりの生葉収量は正の相関があり、新芽生育スコアと生葉の品質の指標となる中性デタージェント繊維(NDF)含有率(NDF含有率が低いほど品質が高い)との間にも正の相関がある。本パラメータも、被覆の有無や用途別に求める(図2式2、式3)。
  • 各圃場の摘採予定日前に2回程度新芽をサンプリングし、NDF含有率を測定する。式2により単位面積当たりの生葉収量を再計算し、栽培面積に応じて圃場の収量を補正するとともに、式3に測定値を代入して新芽生育スコアを求める。
  • 製茶の責任者、サンプリング時のデータを基に、摘採予定日の品質を考慮しながら、各圃場の摘採生葉収量の合計が製茶工場の一日の処理量を超えないように摘採する圃場を決定する。
  • 本システムの試作版(Pythonで記述されたクラウド上で稼働するアプリケーション)を利用して摘採計画を策定し、一番茶期の荒茶を製造すると、利用前と比較して、NDF含有率の増加を従来程度に抑えたまま、製茶工場における生葉荷受け量の平均化と作業期間の延長ができる(図4)。

成果の活用面・留意点

  • 製茶工場における稼働結果は、生葉持ち込み農家を含めて270ha、圃場数約1,000筆の生産現場での実証試験により得られた結果である。
  • (式3)のパラメータの決定に用いたNDF含有率は、茶成分分析計(K社製、GTN-9、近赤外線拡散反射測定方式)で測定した値である。
  • 生葉荷受け時に圃場ごとの収量や品質データを測定・記録している製茶工場では、それらのデータに基づき新芽生育モデルのパラメータを算出すると、モデルの予測精度が向上する。
  • 圃場の生葉収量を算出する際、枕地などを除いた栽植面積を使う必要がある。

具体的データ

図1 摘採計画支援システムの概念図,図2 新芽生育モデル(式1)および生育スコアと生葉収量(式2)、NDF含有率(式3)との関係,図3 被覆の有無や用途の違いによる新芽生育スコア,図 4 システムを利用して策定した摘採計画に基づく製茶工場の稼働実績例

その他

  • 予算区分 : 農林水産省(スマート農業実証プロジェクト)
  • 研究期間 : 2019~2020年度
  • 研究担当者 : 入来浩幸(鹿児島堀口製茶有限会社)、堀口大輔(鹿児島堀口製茶有限会社)、堀口 俊(鹿児島堀口製茶有限会社)、山田龍太郎、角川 修、三森 孝(株式会社寺田製作所)、林戸宏之(テラスマイル株式会社)、大苗誠直(テラスマイル株式会社)
  • 発表論文等 :
    • 入来ら(2023)茶研報、137:9-17
    • 入来ら、特開(2021年3月17日)