要約
現在のウンシュウミカン栽培適地が、今後も適地として継続するかは気候シナリオに大きく依存することや、アボカド適地が将来、大幅に拡大すること等を示す適地移動予測マップは、1kmメッシュの解像度をもち、産地での長期的な生産計画や、自治体の適応計画を策定する際に活用できる。
- キーワード : 亜熱帯果樹、温室効果ガス、気候変動がもたらす機会、気候変動適応法、適応策
- 担当 : 果樹茶業研究部門・果樹生産研究領域・果樹スマート生産グループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 普及成果情報
背景・ねらい
ウンシュウミカン生産は温暖化の影響を受けやすく、日焼けや浮皮など高温障害が増加傾向である。栽植後30年程度は同じ樹で生産するため、産地ごとに長期的な生産計画を検討する必要が生じている。これまでにもウンシュウミカンの栽培適地の予測研究は行われてきたが、地域ごとの詳細な検討を行うには解像度が十分なものでなく、また、気温上昇は、温室効果ガス排出量に依存するが、それがどの程度の不確実性(予測幅)を適地移動に与えるかは不明である。一方、気候変動がもたらす機会の活用も重要である。亜熱帯果樹の現在の栽培適地は南西諸島など島嶼部が中心であるが、今後、本州などに広がる可能性がある。そこで、今世紀末までのウンシュウミカンと亜熱帯果樹のアボカドの適地移動を予測し、個々の産地レベルで適地分布を確認できる詳細なマップを開発する。
成果の内容・特徴
- 開発されたマップは、1kmメッシュの解像度で、現在(今世紀始め、1990~2009年)、今世紀半ば(2040~2059年)、今世紀末(2080~2099年)のウンシュウミカン(図1)およびアボカド(図2)の適地を示し、産地における将来の気候に合わせた長期的な生産計画や、自治体において気候変動適応法に基づく地域適応計画を策定する際の基礎資料として活用できる。
- ウンシュウミカンの適地は、今世紀半ばには、現在の適地より内陸側の地域や、北陸以南の日本海側の沿岸域など、主に落葉果樹を栽培している地域にまで分布する。一方、九州南部の一部などは、適地より高温となり、こうした地域は気候シナリオによっては今世紀末になると、さらに広がる(図1)。適地より高温となった場合は、温暖化の影響を軽減する栽培技術や温暖化対応したウンシュウミカン品種、または、高温に適した樹種への改植等の適応策導入が求められる。
- 現在のウンシュウミカン適地の将来の状況は、気候シナリオに大きく依存する。今世紀末においては、温室効果ガス排出量が少ないシナリオ(SSP1-RCP2.6)では、現在の適地面積の約80%が適地のまま継続できるが、気候政策を導入せず温室効果ガス排出量が非常に多いシナリオ(SSP5-RCP8.5)では、適地として継続できる場所が皆無になる(図3)。これは、地球規模の温室効果ガス排出削減の取り組みが、現在のウンシュウミカンの産地の存続を大きく左右することを示す。
- アボカド適地の総面積は、現在と比べ、今世紀半ばで2.5~3.7倍、今世紀末で2.4~7.7倍に拡大する(図2)。ウンシュウミカンの適地より高温の地域の多くがアボカド適地となるため(図3)、ウンシュウミカンから他のカンキツ類等への転換だけでなく、アボカドへの転換は適応策の一つとなり得る。ただし、寒害が全くないことを保証するものではないので、はじめてアボカドを導入する場合は寒害対策を講じることが望ましい。
普及のための参考情報
- 普及対象 : 行政、普及指導機関、果樹生産者。
- 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等 : 東北中部から九州南部における自治体(41都府県)、果樹生産圃場(栽培面積134000ha、令和5年産果樹生産出荷統計)。
- その他 : 1kmメッシュ単位の詳細なウンシュウミカン・アボカドの適地移動予測マップは、農研機構WEBサイトより入手できる。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 環境省(環境研究総合推進費)、文部科学省(科研費)
- 研究期間 : 2020~2024年度
- 研究担当者 : 杉浦俊彦、杉浦裕義、紺野祥平、伊達智輝、吉松孝宏(鹿児島県農開総セ果樹・花き部)、木﨑賢哉(鹿児島県農開総セ果樹・花き部)
- 発表論文等 : Sugiura T. et al. (2024) J. Agric. Meteorol. 80:111-117