要約
亜熱帯果樹が低温で枯死しないための限界温度を、全国の露地における大規模な若木の越冬試験により明らかにすると共に、人工気象器を用いた若木の低温処理を実施し、露地における樹の限界温度を、露地での大規模な越冬試験を行わずに簡易的に推定できる手法を開発する。
- キーワード : 亜熱帯果樹、温暖化、適地判定、耐寒性、放射冷却
- 担当 : 果樹茶業研究部門・果樹生産研究領域・果樹スマート生産グループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 研究成果情報
背景・ねらい
温暖化に伴う気温上昇により、国内における亜熱帯果樹の栽培適地の拡大が期待されている。樹が冬季の低温で枯れずに越冬できる温度(限界温度)は、栽培適地の北限を決める主な要因である。一般に、限界温度は、人工気象器などを用いた低温処理(室内試験)によって調べられるが、室内試験では放射冷却に伴う樹体温度の低下が起こらないため、複数地域の露地での大掛かりな栽培試験が必要である。そこで、温度条件の異なる全国10か所の公設機関の協力のもと、露地において、亜熱帯果樹3樹種(パッションフルーツ、ライチ、アボカド)の1~3年生樹(若木)の大規模な越冬試験(露地試験)を実施することで、樹の限界温度を明らかにするとともに、室内試験を併せて行うことで、両手法による限界温度の違いから、露地における樹の限界温度を、露地試験を行わずに簡易的に推定できる手法を開発する。
成果の内容・特徴
- 露地試験について、翌春に発芽しなかった樹の割合(枯死率)と試験実施期間中の最低気温 (Twin)を年別および地点別に求め(表1)、枯死率>0%の結果の中で最も高いTwinとその一つ高温側の枯死率=0%におけるTwinの平均値を限界温度(Tch)と定義すると(パッションフルーツは過去の知見も考慮)、パッションフルーツ「サマークイーン」で約-1.5°C、ライチ「佐多」で約-2°C、アボカドの「メキシコーラ」、「ベーコン」、「フェルテ」の3品種で、それぞれ約-5°C、-4.5°C、-4°Cが得られる。
- 室内試験について、冬季に人工気象器を用いて若木を複数の温度(7~-8°C)および時間(3~9時間)で低温処理し、処理1か月後(処理後は25°Cに設定したガラス室で管理)の発芽状況から枯死率を求め、露地試験と同様の定義により限界温度(Tch')を調べると、TchとTch'の差は、いずれも冬季の晴天弱風夜間に露地で実施した葉温と気温の差(ΔT;気温-葉温)と概ね等しい(表2)。なお、放射冷却が起こらない室内試験では、気温と葉温の差(ΔT')はほとんど認められない。
- 以上より、露地で生育する樹の限界温度Tchは、下記式によって簡易的に求めることができる。
Tch=Tch'+ΔT
Tch'は室内試験から得られる限界温度、ΔTは放射冷却の強まる冬季の晴天弱風夜間の露地における葉温と気温との差である。
成果の活用面・留意点
- 本手法を活用することにより、露地で樹の越冬試験を行わなくても、室内試験と冬季に晴天弱風夜間の露地において葉温と気温の差を計測することで、樹の限界温度が求まる。
- 室内試験については3つの処理時間(3、6、9時間)で行ったが、いずれの処理時間でも枯死率に違いは認められないため、少なくとも3時間の低温処理を行えば評価可能である。
- 葉面での放射環境とそれに伴う葉と空気との熱のやりとりは品種によって大きく異なることはないと考えられるため、今回供試した3樹種については、本手法が他の品種にも適用できると考えられる。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 交付金、農林水産省(地域戦略プロジェクト)、環境省(環境研究総合推進費)
- 研究期間 : 2016~2024年度
- 研究担当者 : 紺野祥平、杉浦俊彦
- 発表論文等 : Konno S. et al. (2024) J. Agric. Meteorol. 80:90-97