要約
モモ樹の水ストレス(枝の水ポテンシャル、Ψstem)を画像から推定するため、水ストレス画像の大規模データセットを作成し、深層学習させる。樹を近接動画撮影し、静止画フレームごとのΨstemを深層学習モデルから推定し、平均化することにより高精度に樹代表Ψstemを推定できる。
- キーワード : AI、モモ、水ストレス、画像診断、深層学習
- 担当 : 果樹茶業研究部門・果樹生産研究領域・果樹スマート生産グループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 研究成果情報
背景・ねらい
モモ樹の水ストレスは果実の大きさや糖度、渋み、新梢生育などに影響する。果実品質や生育を制御する精密な水管理を行うためには、樹の水ストレス指標となるΨstemを計測する必要があるが、高額な機器を要し、また葉を切り取る必要がある。深層学習により画像から水ストレスを推定できれば、スマートフォンを用いてほ場で水ストレスを判定するなどの機動的で低コストな診断が可能となる。一方、深層学習には大規模な水ストレス画像のデータセット必要であり、また、果樹は一般に樹体が大きく、樹全体を離れて撮影しようとすると、フレームアウト、他の樹の映り込み、細部情報の解像度不足といった問題が生じる(図1)。
そこで、本研究では大規模データセットを作成し、水ストレス画像の深層学習を用いてΨstemを画像から推定するとともに、大きな樹の画像診断法として、樹から50~100cm程度離れて移動しながら近接動画を撮影し、動画から多数の静止画フレームを取得し、深層学習の推定に用いる。静止画フレームごとのΨstemを予測し、予測値を平均化することにより樹代表Ψstemを高精度に推定する手法を開発する。
成果の内容・特徴
- 6月にモモ樹の枝切断処理により人為的に水ストレスを再現し、Ψstemの異なる樹において動画を撮影し、データセットを作成後、深層学習モデル(Resnet50)により学習させる(図1)。学習させた深層学習モデルを用いてテストデータセットを推定すると、推定値と実測値との間には有意な相関(r2=0.767)が認められるが、推定値の変動が大きい(図3A)。同一動画由来の全フレームの推定値の分布はすべての動画で概ね正規分布となることから(図3B、実測値-1.265MPaの例)、平均推定値と実測値との間の関係をみると非常に高い相関が認められる(r2=0.927)(図3C)。なお、同一動画内の推定値のバラツキは実際のΨstemの分布に直接起因しないので、未知ノイズの分布と考えられる。
- 本Ψstem推定モデルを用いて、異なる品種(「日川白鳳」、「川中島白桃」)および樹形(V字仕立て、ポット植え樹)のモモ樹において、切断処理していない樹のΨstemを推定したところ、6月の健全樹であれば誤差0.2MPa程度でΨstemを推定できる(データ略)。
- これらのことから、樹近接動画を撮影し、取得した複数の静止画フレームのΨstem推定値を平均化することで樹のΨstemを高精度に推定できる(図2)。
成果の活用面・留意点
- このような学習および評価方法は立体的で大きい果樹の画像診断における撮影および解析方法として有用であり、水ストレス以外の画像診断にも応用できる。
- 本モデルは6月の画像データにより解析した結果であり、それ以外の時期や品種で推定する場合は、適応性を確認する必要がある。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 交付金、文部科学省(科研費)
- 研究期間 : 2021~2024年度
- 研究担当者 : 山根崇嘉、ハガラガムワ ハルシャナ、杉浦綾、高橋太郎、羽山裕子、阪本大輔、三谷宣仁
- 発表論文等 :
- Yamane T. et al. (2023) Scientific Reports 13, 22359
- Yamane T. et al. (2022) The XX CIGR World Congress, 176
- 山根、杉浦「画像判定方法及び画像判定装置」特開2024-106204(2024年8月7日)
- 山根、杉浦「水ストレス診断方法及び水ストレス診断装置」特開2024-106205(2024年8月7日)