要約
リンゴ品種「Vered」の自家和合性は、雌しべ側の自家不和合性遺伝子の突然変異に起因することを解明し、この変異遺伝子(S39sm-RNase)を特異的に識別する優性DNAマーカーを開発した。この選抜マーカーを利用することにより、自家和合性リンゴの育種を効率的に進めることができる。
- キーワード : リンゴ、自家不和合性、自家和合性、欠失、選択的スプライシング
- 担当 : 果樹茶業研究部門・果樹品種育成研究領域・果樹茶育種基盤グループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 研究成果情報
背景・ねらい
リンゴは自家受粉では受精・結実しない性質(自家不和合性)を持つため、栽培では結実を確保するために受粉樹の混植や人工受粉が行われている。しかし、近年、開花期の低温による花粉媒介昆虫の活動の低下、人工受粉作業の人手不足、中国からの人工受粉用花粉の輸入停止など、リンゴの安定生産に影響を及ぼす問題が顕在化しており、自家受粉で受精・結実する自家和合性品種の開発が求められている。
本研究では、リンゴの育種における基盤情報を得ることを目的として、イスラエルで育成された低低温要求性リンゴ品種「Vered」の自家和合性の分子機構を解明して原因遺伝子を特定し、そのDNA選抜マーカーを開発する。
成果の内容・特徴
- 「Vered」の自家受粉による結実率は35.7~93.3%、1果あたり種子数は5.0~7.0個であり、「Vered」は自家和合性を示す(表1)。
- 「Vered」の自家不和合性遺伝子型(S遺伝子型)は、S24S39smである。
- 「Vered」の自殖後代のS遺伝子型は、S24S39sm : S39smS39smが1 : 1に分離したことから、S39sm遺伝子が自家和合性に関与していると考えられる。
- 「Vered」の雌しべ側の自家不和合性遺伝子S39sm-RNaseは、正常型のS39-RNaseと比べて、205bpを欠失している(図1A)。また、S39sm-RNaseは選択的スプライシングにより2種類のmRNA(S39sm-RNase1とS39sm-RNase2)を発現している(図1B)。
- 正常型のS39-RNaseは229アミノ酸をコードするのに対し、S39sm-RNase1は205bpの欠失により途中で終始コドンが生じ、121アミノ酸の短いタンパク質をコードする(図1C)。また、S39sm-RNase2は選択的スプライシングによって引き起こされた4bpの欠失により途中で終始コドンが生じ、S39sm-RNase1とはアミノ酸配列が異なるものの偶然にも同じ121アミノ酸の短いタンパク質をコードする(図1C)。以上のことから、「Vered」は雌しべ側の自家不和合性遺伝子(S-RNase)の機能喪失により、自家和合性を示すようになったと考えられる。
- S39sm-RNaseの205bpの欠失構造を基に、S39sm遺伝子を特異的に識別するDNAマーカーを開発したところ、S39sm遺伝子から117bpの長さのPCR産物が増幅される(図2)。
成果の活用面・留意点
- 「Vered」を交配親に用いて後代を作出し、S39sm特異的DNAマーカーで選抜することにより、S39sm遺伝子を持つ自家和合性個体を幼苗段階で効率的に選抜することができる。
- S24遺伝子を持つ種子親に「Vered」の花粉を交配した場合、「Vered」のS24花粉は受精できず、S39sm花粉のみが受精する。その結果、後代の全てがS39sm遺伝子を持った自家和合性個体になる。
- 「Vered」は農業生物資源ジーンバンクから入手できる。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 交付金、文部科学省(科研費)
- 研究期間 : 2013~2024年度
- 研究担当者 : 岡田和馬、清水拓、森谷茂樹、和田雅人、阿部和幸、澤村豊
- 発表論文等 : Okada K. et al. (2024) Plant Molecular Biology 114:113
doi:10.1007/s11103-024-01514-0