メコンデルタにおける水稲・肉牛・バイオガス複合システムの環境影響

要約

ベトナム・メコンデルタ地域における、稲わらの飼料利用、肉牛ふんからのバイオガス生産、消化液の水稲作での肥料利用を組み合わせた複合システムは、専業システムと比較して温室効果ガス排出量、エネルギー消費量、富栄養化への影響をそれぞれ22%、22%、14%削減できる。

  • キーワード:ベトナム、メタン発酵、温室効果ガス、LCA、
  • 担当:畜産研究部門・高度飼養技術研究領域・スマート畜産施設グループ
  • 代表連絡先:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

ベトナム南部のメコンデルタ地域は、同国全体のコメ生産量の約半分を生産する世界でも有数の水稲生産地帯であり、また近年肉牛の生産も増加している。しかし、水田および肉牛は農業における主要な温室効果ガス (GHG)排出源であり、その削減が求められている。一方、水稲生産の副産物である稲わらや肉牛生産に伴うふん尿は必ずしも有効利用されていない。そのため、水稲作の稲わらを肉牛生産で飼料利用し、肉牛生産で発生するふん尿をバイオダイジェスター (BD)で処理してバイオガスを生産し、発酵残さである消化液を水稲作で肥料利用する、耕畜エネルギー複合システムは水稲および肉牛生産の環境負荷を削減できる可能性がある。
そこで本研究では、耕畜エネルギー複合システムおよび水稲と肉牛を別々に生産する専業システムの環境影響をライフサイクルアセスメント (LCA)により評価する (図1)。

成果の内容・特徴

  • 複合システムは、専業システムと比較して、GHGの排出量を22%削減できる (82.1 vs. 105.4 t CO2e)。複合システムでは、稲わらを飼料利用することでわらの鋤込み量が減るため水田からのメタン排出量が減少し、バイオガスが化石燃料を代替することでCO2排出量が減少する (図2a)。
  • 複合システムは、専業システムと比較して、バイオガスが化石燃料を代替するためエネルギー消費量を22%削減できる(52.9 vs. 68.3 GJ) (図2b)。
  • 複合システムは、専業システムと比較して、富栄養化への影響を14%削減できる (125.7 vs. 145.9 kg PO4e)。主な要因は、肉牛のふん尿処理から排出されるアンモニアの排出量や牧草生産から排出される富栄養化物質が減少することである (図2d)。一方、酸性化への影響は、複合システムでは専業システムと比較して1%増加する (196.7 vs. 194.8 kg SO2e) (図2c)。

成果の活用面・留意点

  • 機能単位は、1ha の水稲作(三期作のため約18t/ha・年)とそこから発生する稲わらを飼料とした場合の肉牛生産量(生体重で約890kg/年)である。評価の対象範囲は、飼料や農業資材の生産からコメおよび肉牛を農場から出荷する段階までである。評価項目は、GHG排出量 (CO2、CH4、N2O)、エネルギー消費、酸性化、富栄養化である。環境影響評価に必要なデータは、現地の農家に聞き取り調査を行うことにより取得し、環境負荷係数等についてはIPCCガイドライン等の文献値を用いている。
  • 水稲および肉牛生産を組み合わせた環境と調和した生産を図るにあたり有用な情報となる。
  • 複合および専業システムの特徴、用いた環境負荷発生係数等、詳細については発表論文を参照されたい。

具体的データ

図1 解析した水稲・肉牛専業システムおよび耕畜エネルギー複合システム,図2 複合および専業システムの温室効果ガス等の排出量,

その他

  • 予算区分:文部科学省(科研費)
  • 研究期間:2015~2020年度
  • 研究担当者:荻野暁史、Nguyen Van Thu(カントー大)、宝川靖和、泉太郎(JIRCAS)、鈴木知之、安藤貞、長田隆、酒井貴志(宮崎大)、川島知之(宮崎大)
  • 発表論文等:Ogino A. et al. (2021) J. Environ. Manag. 294:112900