牛の子宮機能におよぼすリノール酸ならびにリノレン酸の影響

要約

リノール酸またはリノレン酸を牛の子宮内に投与すると発情周期が延長する。また、リノール酸とリノレン酸は、培養した牛子宮内膜組織からのプロスタグランジン(PG) E2とPGF2α合成割合を変化させる。

  • キーワード:牛、繁殖、子宮、リノール酸、リノレン酸
  • 担当:畜産研究部門・高度飼養技術研究領域・繁殖システムグループ
  • 代表連絡先:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

リノール酸(オメガ6系)とリノレン酸(オメガ3系)は、それぞれの系の代表的な脂肪酸として知られ、牛の卵巣を主なターゲットとして繁殖機能に影響をおよぼすと考えられている。しかし、卵巣とともに繁殖機能に重要な役割を持つ子宮への影響は明らかにされていない。本研究では、リノール酸またはリノレン酸を牛の子宮内に直接投与して、発情周期の長さがどのように変化するか、それに伴う発情周期と深い関連のあるプロジェステロン(黄体ホルモン)の血中濃度変化を調べる。さらに、子宮内膜で合成される主要なホルモンであるPG産生におよぼすリノール酸およびリノレン酸の影響について、組織培養システムを用いて調べる。これにより、牛の子宮機能におよぼすリノール酸、リノレン酸の影響とその作用機構を解明する。

成果の内容・特徴

  • リノール酸またはリノレン酸を子宮内に投与した牛(黒毛和種経産牛)では、個々の牛の直近1~3回の発情周期の平均期間(投与前)と比較して、発情周期の有意な延長が認められる。一方、対照牛に生理食塩水を子宮内投与しても、発情周期の長さに影響は見られない(図1A)。
  • リノール酸を子宮内投与した牛の血中プロジェステロン濃度は、発情周期19~21日目に対照牛よりも高くなる。また、リノレン酸投与牛では、同時期における対照牛の血中プロジェステロン濃度よりも高い傾向にあり、発情周期20日目には有意な差が認められる(図1B)。これらから、リノール酸とリノレン酸は黄体のプロジェステロン産生に影響をおよぼすと考えられたが、培養黄体組織のプロジェステロン産生におよぼすリノール酸とリノレン酸の効果は認められない。
  • 培養した子宮内膜組織におけるPGE2ならびにPGF2α産生量は、リノール酸またはリノレン酸の添加により、対照と比較してそれぞれ有意に増加または減少する(図2)。
    黄体のプロジェステロン産生はPGE2で促進され、PGF2αで抑制されることが知られているため、リノール酸とリノレン酸は子宮からのPG合成割合を制御することによって、間接的に黄体のプロジェステロン産生を維持させることで発情周期を延長させると考えられる。

成果の活用面・留意点

  • これまで明らかにされていなかった牛の子宮機能におよぼすリノール酸とリノレン酸の作用機構解明に貢献する。
  • リノール酸やリノレン酸の牛への効果的な投与手法を確立することで、分娩後の牛の生殖機能を効率的に制御するための新たな技術開発への展開が期待できる。

具体的データ

図1 リノール酸またはリノレン酸の子宮内投与(各5 mg/10 ml)が牛のA)発情周期の長さおよびB)プロジェステロン産生に及ぼす影響(各n=4),図2 リノール酸またはリノレン酸が培養子宮内膜組織のA)PGE2ならびにB)PGF2産生に及ぼす影響(各n=4)

その他

  • 予算区分:交付金、その他外部資金(伊藤記念財団研究助成)
  • 研究期間:2018年度
  • 研究担当者:作本亮介、林憲悟、伊賀浩輔
  • 発表論文等:Sakumoto R. et al. (2021) J. Reprod. Dev. https://doi.org/10.1262/jrd.2021-107