腟温度測定による分娩開始時期の予測は牛の品種や産歴に関わらず有効と考えられる

要約

牛の品種や産歴によって分娩難易には差があるものの、腟温度測定による分娩予測は約1日前に可能と考えられる。腟温変化パターンも品種、産歴を問わず似ているが、腟温変化率は未経産牛の方が経産牛と比べてより顕著である。

  • キーワード:牛、分娩監視、腟温測定、品種、産歴
  • 担当:畜産研究部門・高度飼養技術研究領域・繁殖システムグループ
  • 代表連絡先:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

畜産・酪農業において分娩時の難産や死産は経営に深刻な影響を与えることから、分娩監視は非常に重要である。一方、夜間の監視業務は大きな負担となっており、分娩監視の省力化と正確な分娩予知技術が望まれている。分娩前には妊娠の成立と維持に重要な黄体ホルモンであるプロジェステロン濃度の低下とともに体温が低下することが知られており、腟温を利用した分娩監視システムが上市され普及しつつある。しかし、分娩前の膣温度変化による分娩時期の予測が異なる品種や産歴の牛でどの程度有効であるかの検証は少ない。本課題では、膣温測定による分娩予知技術の効果的な活用手法を提唱するために、品種(乳用種、肉用種)、産歴(経産、未経産)による分娩前腟温変化、分娩経過時間の違いを検証する。

成果の内容・特徴

  • 分娩予定日7-10日前に市販の腟温測定センサを装着し、分娩までの腟温を経時的に記録する。腟温低下通報の閾値(直近2日間の4時間移動平均値との差)を乳用種、肉用種とも0.3°Cに設定し、腟温低下(通報1)時刻、破水に伴う腟温センサ脱落(通報2)時刻、娩出時刻を記録することで、腟温低下~娩出時刻(分娩開始時刻)を算出することができる。
  • 通報1と通報1&2の検出率は肉用種で乳用種より有意に高いが、乳用種でもその検出率は高く、分娩前の腟温測定は品種、産歴に関わらず分娩予知に有効である(表1)。
  • 通報1から娩出までの時間は品種、産歴による差は認められず、その時間は27~30時間程度であることから分娩前日には予知できる(表1、2)。一方、自然分娩率は品種に関わらず未経産で有意に低く、乳用種は肉用種よりも低い(表1、2)。
  • 分娩7日前の同時刻腟温との比較を行い、分娩前48時間の腟温変化率とそのパターンを図示した場合、腟温低下のパターンは品種・産歴に関わらずほぼ同じであるが、乳用種、肉用種ともに未経産牛では経産牛と比較して腟温低下率が大きい(図1)。

成果の活用面・留意点

  • 本試験で利用した腟温測定センサは腟温低下通報閾値が可変である。閾値を変えることで、さらに検出率、分娩予測時間の精度が変化する可能性がある。
  • 腟温は採食や行動による影響を大きく受けるため、誤検知を防ぎ、正確な分娩時刻を予測するためには、飼料給与時刻をはじめとした適切な飼養管理が重要である。
  • センサは腟内に挿入するため、挿入時のセンサ・陰部の洗浄、消毒を徹底し、挿入に伴う感染に注意する必要がある。

具体的データ

表1 各通報の検出率,表2 乳用種分娩経過時間と分娩難易,表3 肉用種分娩経過時間と分娩難易,図1 腟温センサ脱落前48時間の体温変化

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2014~2019年度
  • 研究担当者:阪谷美樹、澤戸利衣、三輪雅史、法上拓生、田中正仁、竹之内直樹
  • 発表論文等:Sakatani M. et al. (2021) Theriogenology 172:230-238