耐病性・消化性に優れる寒冷地・温暖地向きオーチャードグラス中生品種「きよは」

要約

オーチャードグラス中生品種「きよは」は、「まきばたろう」と比べて、寒冷地から温暖地において3か年合計乾物収量が104とやや多収で、早春、秋の草勢、再生力にも優れる。黄さび病、小さび病、すじ葉枯病に強い。セルラーゼによる消化性評価は、1~3番草において優れる。

  • キーワード:オーチャードグラス、耐病性、高消化性、採草・放牧用
  • 担当:畜産研究部門・畜産飼料作研究領域・飼料作物育種グループ
  • 代表連絡先:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

オーチャードグラスは都府県では東北から中部地域までの寒冷地、温暖地での生産力や永続性が高く、基幹草種として利用されている。2007年に品種登録された中生品種「まきばたろう」は、東北や北関東での適期収穫、作業分散のために、普及が進んでおり、現在これら地域の9県で奨励品種となっている。また、近年の温暖化に伴って、夏季の生長の停滞や新たな病虫害の発生、雑草侵入の激甚化がみられるようになり、これも品質や永続性低下の一因になっている。「まきばたろう」は、収量性や永続性が早生普及品種と比べて同等以上の特性を示すものの、茎葉がやや粗剛で、家畜の採食性が問題とされることがある。
そこで、「まきばたろう」よりも高品質、かつ安定多収・永続性の新品種を育成するために、海外から導入した遺伝資源等を活用する。具体的な育種目標は、近年頻繁に観察される新病害黄さび病や顕在化してきた小さび病等への耐病性を付与し高消化性を図る。さらに、夏季の高温耐性を強化、早春や晩秋の生長性や刈取後の再生力を高めて雑草競合力の増強も図る。

成果の内容・特徴

  • 3か年合計乾物収量は、全場所平均で「まきばたろう」比104で、やや多収である(表1)。
  • 早晩性は、中生である。「まきばたろう」より2日遅く、1番草の出穂程度が低い(表2)。
  • 越夏性は、「まきばたろう」よりやや優れる(表2)。越夏性に関連する葉腐病罹病程度がやや低い(表2)。
  • 積雪地において雪腐病罹病程度が「まきばたろう」よりやや高いが、越冬性は平均すると同程度である(表2)。
  • 病害罹病程度は、黄さび病、小さび病、すじ葉枯病は「まきばたろう」より低く、黒さび病、雲形病は「まきばたろう」と同程度である(表2)。
  • 消化性の指標となるセルラーゼによる乾物分解率は、1・2・3番草で「まきばたろう」よりやや高く、4番草ではやや低い(表2)。
  • 春・秋の草勢に優れ、低温伸長性に優れる(表2)。
  • 放牧適性は、乾物利用率と草丈利用率がやや高く、「まきばたろう」よりやや優れる(表2)。
  • 育成地における採種性は、「まきばたろう」よりやや低いが(表2)、家畜改良センター茨城牧場長野支場における実規模採種では、一定レベルの採種量が得られる。したがって「きよは」の採種性は、実用上問題ないレベルである。

成果の活用面・留意点

  • 適応地域は、寒冷地~温暖地の中標高地である。「まきばたろう」に置き換えて普及させる。普及見込み面積は5000haである。
  • 採草および放牧の両方に利用可能である。夏季の刈取り管理は、越夏前の刈取りは高刈りする、盛夏期の利用を控える、また過繁茂にならないなど梅雨期から初秋まで越夏性に配慮した適正な刈取り等の栽培管理が必要である。

具体的データ

表1 「きよは」の年間合計乾物収量(kg/10a),表1 「きよは」の年間合計乾物収量(kg/10a)

その他

  • 予算区分:交付金、農林水産省(イノベーション創出強化研究推進事業)
  • 研究期間:1998~2019年度
  • 研究担当者:内山和宏、水野和彦、荒川明、清多佳子、上山泰史、杉田紳一、小松敏憲、矢萩久嗣、廣井清貞
  • 発表論文等:内山ら(2021)「きよは」品種登録出願公表第35302号(2021年9月16日)