放牧地における吸血昆虫対策を基軸とした牛伝染性リンパ腫ウイルス(BLV)伝播阻止の効果

要約

BLVを機械的に運ぶアブやサシバエなどの吸血昆虫に重点をおいた対策の導入により、放牧地におけるBLV伝播リスクの大幅な低減が可能になり、牧場および牛群のBLV清浄化を推進できる。

  • キーワード:吸血昆虫、BLV、衛生対策、プロウイルス量、分離放牧
  • 担当:畜産研究部門・畜産飼料作研究領域・省力肉牛生産グループ
  • 代表連絡先:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

和牛生産基盤の強化には、繁殖牛の省力生産による素牛増頭が必要であり、周年親子放牧等の普及が進められている。一方、国内の生産現場ではBLVの感染拡大が強く危惧されており、特に放牧地における吸血昆虫によるBLV伝播リスクが高く問題となっている。そこで本研究では、繁殖牛放牧地における吸血昆虫対策を基軸としたBLV伝播阻止法の有用性を検証する。

成果の内容・特徴

  • 本法は、①BLV陽性牛牧区と陰性牛牧区の間に5m幅の分離域を設置、②分離域に約50m間隔でアブトラップを設置、③耳標型外部寄生虫駆除剤を片方の牛群にのみ装着、④水飲み場や庇陰舎は両牧区の境界から離して設置および⑤片方の牛群を追い込んで一時隔離できるスペース(作業場から5m以上離す)の確保、から構成される(図1)。
  • BLVプロウイルス保有量の高い陽性牛がいる放牧地において、本対策を行わない場合は陰性牛のBLV陽転リスクが高まる。しかし、本対策実施によりBLV伝播リスクが大幅に低減される(図2)。これにより限られた放牧地、設備においても牧場および牛群のBLV清浄化の推進が可能となる。

成果の活用面・留意点

  • BLV感染が深刻な地域や清浄化を求めている地域における家畜保健衛生所やNOSAI等の臨床獣医師やコンサルタントに対し、本成果を基に作成した技術パンフレットを活用して普及活動を展開し、農家や公共牧場への実践導入を目指す(図3)。
  • BLV陽性牛と陰性牛の分離は、PCR法を用いたBLVプロウイルス検査に基づいて行う。
  • 本研究では、アブトラップおよび耳標型外部寄生虫駆除剤は市販品であるアブキャップ(ファームエイジ)およびペルタッグ(住化エンバイロメンタルサイエンス)を使用している。
  • 人為的感染リスクを伴う放牧飼養管理に必要な作業は、「牛白血病(牛伝染性リンパ腫)に関する衛生対策ガイドライン」に準拠した手順に従い実施する。
  • 放牧牛に対する衛生対策として、新生子牛への駆虫薬の投与および放牧牛全頭に殺ダニ剤と駆虫薬の投与を用法用量に従い、定期的に実施する。

具体的データ

図1 吸血昆虫対策を基軸としたBLV伝播阻止法を取り入れた放牧地のレイアウト,図2 対策導入によるBLV伝播リスクの低減効果

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2019~2021年度
  • 研究担当者:芳賀聡、石崎宏
  • 発表論文等:芳賀ら(2021)家畜感染症学会誌、受理