低メタン産生牛に特徴的な新規の第一胃内細菌を発見

要約

乾物摂取量当たりのメタン産生量が少なく、胃液中のプロピオン酸濃度が高いホルスタイン種泌乳牛からプロピオン酸前駆物質を多く産生する新規の嫌気性細菌を分離し、新種登録した。乳用牛のメタン排出削減や飼料利用性の改善への貢献が期待される。

  • キーワード:プロピオン酸、乳牛、ルーメン細菌、プレボテラ属、新規細菌
  • 担当:畜産研究部門・乳牛精密管理研究領域・乳牛精密栄養管理グループ
  • 代表連絡先:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

地球温暖化を緩和するため、反芻家畜第一胃内発酵で生じるメタン(温室効果ガス)についても排出量の削減が求められている。第一胃内においてメタン産生とプロピオン酸産生は水素消費をめぐって拮抗関係にあることが知られている。牛の第一胃内微生物相は、牛が摂取した飼料を分解、発酵し、発酵で生じるプロピオン酸などの短鎖脂肪酸を主要なエネルギー源としており、プロピオン酸産生の促進は、メタン産生の低減だけでなく、乳用牛の飼料利用性の改善や生産性向上にも貢献すると期待される。
そこで、本研究では第一胃内発酵における乾物摂取量当たりのメタン産生量が少なく、胃液中のプロピオン酸濃度の高い泌乳牛から、プロピオン酸産生に関わる細菌の分離を試み、その特徴を調べる。

成果の内容・特徴

  • メタン産生量が少なく、胃液中のプロピオン酸濃度の高いホルスタイン種泌乳牛(農研機構畜産研究部門所有)から、菌株の栄養要求を満たした培地を用いることで、新たに細菌株R5019Tを分離した。
  • 16S rRNA遺伝子の塩基配列に基づく分類では、本菌はプレボテラ属に分類されるが、その塩基配列の相同性、ゲノム構成、脂質組成、糖の資化性が既知の細菌種とは異なるため、新種としてプレボテラ・ラクティシフェックス(Prevotella lacticifex)と命名する(図1)。
  • 本菌は偏性嫌気性、非運動性のグラム陰性桿菌で、ゲノムサイズは約4.19 Mbである(図2)。
  • 本菌は、グルコースを基質とした場合にプロピオン酸前駆物質であるコハク酸、乳酸、リンゴ酸を多く生成する。

成果の活用面・留意点

  • 本菌は、牛胃内におけるプロピオン酸前駆物質の産生に関与する。本菌の発酵機能や増殖促進条件の解明により飼料利用性の改善やメタン排出低減に貢献することが期待される。
  • ゲノム情報はGenBank、EMBL、DDBJのデータベースにて入手できる。

具体的データ

図1 16S rRNA遺伝子の塩基配列に基づくPrevotella lacticifexの系統樹,図2 Prevotella lacticifexの顕微鏡像

その他

  • 予算区分:農林水産省(ムーンショット型農林水産研究開発事業)、農林水産省(戦略的プロジェクト研究推進事業:畜産分野における気候変動緩和技術の開発)
  • 研究期間:2018~2021年度
  • 研究担当者:真貝拓三、池山菜緒(理研JCM)、熊谷真彦、大森英之、坂本光央(理研JCM)、大熊盛也(理研JCM)、三森眞琴
  • 発表論文等:
    • Shinkai T. et al. (2022) Int. J. Syst. Evol. Microbiol. 投稿中
    • 真貝、特願(2021年6月18日)