位置監視システムを活用した放牧牛の新しい管理方法

要約

GPS(Global Positioning System)による位置監視システムを活用すると、公共牧場などで放牧飼養されるウシへの見回り作業時間が最大で78%削減されるとともに、悪天候時の効率的な探索、脱柵や事故の早期発見、放牧地内の頭数確認などの副次的効果が得られる。

  • キーワード : ウシ、放牧、情報通信技術、管理方法
  • 担当 : 畜産研究部門・畜産飼料作研究領域・省力肉牛生産グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 普及成果情報

背景・ねらい

わが国では、飼料基盤の補完や労働力の負担軽減を目的として、地方公共団体や農協などが出資して畜産農家のウシを預かる公共牧場がある。現在、稼働している公共牧場は全国で698ヵ所であり、放牧地の総面積は約8万ha、利用頭数は13万頭であるが(農林水産省 2022)、近年、預託頭数の減少により公共牧場の休止や統廃合が進んでいる。しかし、公共牧場の施設や機械ならびに放牧地を整備して機能強化を行い、自給飼料の生産基盤を最大限に活用することは、全国の繁殖雌牛の増頭につながる有効な手段である。
公共牧場では、原則としてウシを放牧飼養することにより、管理者への負担を軽減している。しかし、放牧飼養の主要な作業となるウシの見回り作業は平均で127分/日であり、最長では300分/日かかるとの報告がある(遠山ら 2022)。ウシの見回り作業は、放牧牛の位置や健康状態の確認、怪我や事故ならびに脱柵の早期発見と対応といった複合作業と定義されるが、作業の大部分が起伏に富む放牧地内で徒歩により行われ、加えて、専門的な知識と経験を要する危険な重労働である。
そこで、本研究ではわが国で唯一の市販品である放牧牛のための位置監視システム(以下、本機器と略す)を用いて、公共牧場における管理者の負担軽減を目的として、放牧牛の新しい管理方法を検討して、その効果を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 本機器の使用方法と受信例を図1に示す。本機器は、首輪型GPS(送信間隔:20分、GPS測定誤差:半径20 m、バッテリー稼働期間:6ヵ月間)、受信器およびアプリケーションソフトウェアで構成される。首輪型GPSで収集された放牧牛の位置情報は、LoRa(省電力ワイドエリア無線通信規格)通信で受信器およびアプリケーションソフトウェアに順次送信する。使用者は首輪型GPSからのデータをもとに、放牧牛の位置を地図上に表示して利用できる。
  • 現地実証試験において明らかにされた、放牧牛への見回り作業時間の削減効果を表1に示す。見回り作業時間は、本機器の使用方法によっては最大で78%(平均値)の削減効果がある。削減効果については牧場の規模や地形、飼養頭数などに影響されず、一定の傾向は見られない。首輪型GPSの受信範囲が20 mのため脱柵の誤表示(図2-1,2)があり、誤表示率は約5%である(図2-3)。また、放牧牛の日内行動は不規則性を有するため(図3)、見回り作業時間の計測にも誤差が生じる。一方、使用者には時間的な余裕が生まれ、他の作業時間を確保できるようになる。
  • 本機器の使用者11人を対象としたアンケート調査により、本機器の使用は見回り作業時間の削減以外にも、悪天候時の効率的な探索、脱柵や怪我ならびに事故の早期発見、放牧地内の頭数確認ならびに複数牧場の一元管理などの副次的効果が得られるとの回答が90%以上を占める。本機器の使用により、情報通信技術(ICT)を活用した放牧牛の新しい管理方法が可能になる。

普及のための参考情報

  • 普及対象 : 放牧飼養を行う事業者、地方公共団体・農協など公共牧場を運営する機関
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等 : 全国
  • その他 :
    • わが国において、放牧牛を対象とした位置監視システムは、株式会社GISupply製の「うしみる」が唯一の市販品であり、必要経費は約100円/頭/日である。
    • 当該機器の購入については補助金(例えば、農林水産省の令和5年度畜産生産力・生産体制強化対策事業)がある。

具体的データ

図1 機器の概念図と使用方法,表1 現地実証地における見回り作業時間の短縮効果,図2-1 脱柵の誤表示例,図2-2 脱柵の表示例,図2-3 放牧牛1頭について、約1週間分の機器の軌跡を表示。,図3 放牧牛1頭における1週間の行動軌跡。

その他

  • 予算区分 : 交付金、農林水産省(国際競争力強化技術開発プロジェクト:輸出促進のための新技術・新品種開発)
  • 研究期間 : 2021~2023年度
  • 研究担当者 : 中村好德、遠山牧人、中尾誠司、手島茂樹、喜田環樹、津田健一郎(熊本農研セ草研)、平野 清、渡邊也恭、大島一修
  • 発表論文等 :
    • 遠山ら(2023)肉用牛研究会報、114:42
    • 遠山ら(2024)肉用牛研究会報、116:16-20