リピートブリーダー牛の子宮内膜における血管新生抑制因子の発現と血管分布状態

要約

リピートブリーダー(RB)牛の子宮内膜では、正常に受胎する非RB牛と比較して、主要な血管新生抑制因子の一つであるトロンボスポンジン(TSP)の発現が亢進し、血管分布が減少する。子宮内膜におけるTSPによる血管新生の抑制は、ウシの受胎性と密接に関連していると考えられる。

  • キーワード : リピートブリーダー、子宮内膜、トロンボスポンジン、牛
  • 担当 : 畜産研究部門・高度飼養技術研究領域・繁殖システムグループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

生殖器、発情周期、臨床徴候に異常を認めないが、3回以上授精しても受胎しないリピートブリーダー(RB)牛の存在は生産性の低下をもたらす。本研究では、RB牛では子宮内膜機能が変化しているという仮説のもと、子宮内膜における血管網の構築と受胎性の関連に着目し、RB牛と正常に受胎する非RB牛の子宮内膜において、主要な血管新生抑制因子の一つであるトロンボスポンジン(TSP)の発現動態と血管分布状態の差異を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • RB牛の子宮内膜におけるTSP(TSP1およびTSP2)およびその受容体(CD36およびCD47)の遺伝子発現量は、非RB牛よりも亢進している(図1)。
  • 牛の子宮内膜において、TSP(TSP1およびTSP2)およびその受容体(CD36およびCD47)のタンパク質は、管腔上皮、腺上皮、血管に局在している(図2)。
  • RB牛と正常牛の子宮内膜において、主要な血管新生「促進」因子の遺伝子発現量に差はない。
  • RB牛の子宮内膜における血管数および血管占有率は、非RB牛よりも減少している(図3)。

成果の活用面・留意点

  • TSPを新たな指標とした、子宮内膜機能の評価による長期不受胎牛等の早期発見は、受胎性の向上に繋がる可能性がある。
  • 牛において、非妊娠時の子宮内膜における適切な血管網の構築が受胎の成否と関連することが示されている。
  • 本研究に供試したRB牛の平均空胎日数は約960日であり、子宮内膜は発情周期15日目(発情日を0日目とする)に採取している。
  • 本研究成果は「黒毛和種」から得られた成果であり、他品種での検証が必要である。
  • 牛子宮内膜に発現する血管新生抑制因子はTSPだけではない。

具体的データ

図1.RB牛および非RB牛の子宮内膜におけるTSP(TSP1およびTSP2)および受容体(CD36およびCD47)遺伝子発現動態,図2.牛の子宮内膜におけるTSP(TSP1およびTSP2)および受容体(CD36およびCD47)タンパク質発現局在,図3.RB牛および非RB牛の子宮内膜における、顕微鏡視野あたりの血管数(左)および血管占有率(右)の差異

その他

  • 予算区分 : 交付金、文部科学省(科研費)
  • 研究期間 : 2019~2022年度
  • 研究担当者 : 林憲悟、作本亮介
  • 発表論文等 : Hayashi KG and Sakumoto R. (2023) Anim. Reprod. Sci. 254: 107265