要約
ニューロキニン受容体の作動薬(センクタイド)を末梢から持続投与することによって、反芻家畜の繁殖機能を制御する脳内の神経活動を持続的に活性化させる効果が得られることから、家畜の生殖機能を向上させるための新たな制御技術となる可能性がある。
- キーワード : 繁殖中枢、反芻家畜、ニューロキニン受容体、経腟投与
- 担当 : 畜産研究部門・高度飼養技術研究領域・繁殖システムグループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 研究成果情報
背景・ねらい
近年、家畜の繁殖機能低下による乳畜産物の生産性低下が問題となっており、新たな繁殖機能向上技術の開発が求められている。家畜の繁殖機能は脳内の繁殖中枢における神経活動によって制御され、近年の私達の研究から、ニューロキニン受容体の作動薬であるセンクタイドをヤギの血中に単回投与することで、これら神経活動が活性化することが明らかになっている。この神経活動に伴って誘起される黄体形成ホルモン(LH)のパルス状分泌は、卵巣に作用して正常な卵胞発育を促す刺激となること、また分泌頻度が重要であり、持続的に分泌頻度を向上させることにより、繁殖機能の改善が見込まれる。
本研究では、ニューロキニン受容体作動薬を用いた家畜の繁殖機能向上技術開発に向けた基礎的知見を得るため、牛のモデルとしてヤギを用いて、センクタイドの投与濃度ならびに投与経路による効果の違いを検討する。
成果の内容・特徴
- 繁殖中枢の神経活動を記録可能な手法(多ニューロン発火活動:MUA)を用いることにより、規則的な一過性の神経活動上昇(約30分毎:MUAボレー)が観察できる。MUAボレーはLHのパルス状分泌を誘起する神経活動であり(図1A)、センクタイドの血中投与によって、MUAボレーとLH分泌を誘起することが可能である(図1B)。また、この効果は、投与量に依存するとともに、連続投与(120分)によって作用が持続する(図2)。
- センクタイドによる繁殖中枢活性化を血中投与よりも簡便に行うため、経腟投与をおこなった結果、経腟に投与した場合でも血中に投与した場合と同様に、繁殖中枢神経活動の活性化作用が認められる(図3)。
成果の活用面・留意点
- センクタイドの効果的な投与濃度や投与期間を更に検討することにより、新規の家畜の繁殖機能向上技術としての利用が期待できる。
- 経腟投与は血中投与と比較して簡便であるが、同等の神経活動活性化効果を得るためには多量のセンクタイドが必要となる。
- 本実験で検討した投与濃度や投与期間の実験条件では、脱感作(刺激に対する応答性の低下)は見られないが、より高濃度あるいは長期間の投与条件下では、脱感作によって同等の効果が得られない可能性がある。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 交付金、農林水産省(委託プロジェクト:ゲノム情報を活用した家畜の革新的な育種・繁殖・疾病予防技術の開発)
- 研究期間 : 2012~2022年度
- 研究担当者 : 若林嘉浩、山村崇
- 発表論文等 :
-
Yamamura et al.(2023)J. Reprod. Dev.69:218-222
- 若林嘉浩、山村崇、特願(2022年2月9日)