要約
黒毛和種において数万規模の一塩基多型情報を利用して近交度を評価する方法を開発する。本方法は、家系情報が十分に整備されていない場合でも、ゲノム情報から正確な近交度を評価できる。
- キーワード : 一塩基多型、近交度、黒毛和種、繁殖雌牛
- 担当 : 畜産研究部門・食肉用家畜研究領域・食肉用家畜モデル化グループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 研究成果情報
背景・ねらい
わが国の黒毛和種集団は霜降りを中心とした枝肉形質の改良を目的としてごく一部の優秀な種雄牛が集中的に利用されており、近交度が急速に上昇している。近交度が上昇すると生物としての適応性が低下し、死産、不妊、受胎率の低下や発育不良などが生じるため、現在のペースで近交度が上昇していくと将来的に生産性が大きく低下することが懸念される。これまでは近交度の算出には家系情報が利用されてきたが、一般に、種雄牛に比べて肥育牛や雌牛の血統情報は不十分であることが多く、これらの個体について近交度を正確に評価することは難しい。そこで本研究では、血統情報に代わり一塩基多型(SNP)情報を利用して黒毛和種の近交度を評価する手法を複数提示し、その評価精度を明らかにする。
成果の内容・特徴
- 1998年以降に家畜改良センターで繋養されている黒毛和種2,583頭のSNP情報および1937年以降の最大17世代にわたる16,406頭の血統情報から近交度を算出する。
- 整備された血統情報に基づく近交度(F_PED)と比較すると、SNP情報に基づいてゲノム関係行列の対角要素(F_GRM)、結合した配偶子間の相関係数(F_UNI)、ホモ接合座位数の割合(F_HOM)、ホモ接合SNP連続領域の割合(F_ROH)、同祖性ホモ接合体の割合(F_HBD)から算出した5つの指標のうち、F_ROHがF_PEDに最も近い分布であり(図1)、かつ相関係数も高い(図2)。
- F_PEDからF_ROHへの回帰係数は1.01で、切片が0.01であり(図3)、F_ROHとF_PEDとは強い関連がある。
- F_ROHを活用することで近交度を評価できる。
成果の活用面・留意点
- 繁殖雌牛のように家系情報が充分に整備されていない場合でも、ゲノム情報から正確な近交度を評価し、近交度を抑制した交配計画を策定できる。
- F_ROHは算出に際して実施者が対象集団の遺伝的背景を考慮して複数のパラメーターを設定しなければならない。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 交付金
- 研究期間 : 2022~2023年度
- 研究担当者 : 西尾元秀、荒川愛作、小林栄治、石井和雄、谷口雅章、大江美香、小山秀美、岡村俊宏、福澤陽生、一関可純(家畜改良セ)、井上慶一(宮崎大)、小川伸一郎、竹田将悠規(家畜改良セ)
- 発表論文等 :
Nishio M. et al. (2023) BMC Genomics 24:376 https://doi.org/10.1186/s12864-023-09480-5