要約
母豚の代表的な繁殖形質である分娩時の一腹生存産子数および死亡頭数は、気象観測記録にもとづき暑熱の影響を考慮して遺伝的能力を評価できる。
- キーワード : 豚、暑熱、生存産子数、気象観測記録、遺伝的能力評価
- 担当 : 畜産研究部門・食肉用家畜研究領域・食肉用家畜モデル化グループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 研究成果情報
背景・ねらい
わが国では全国各地で豚が飼養されている。分娩時の一腹生存産子数や死亡頭数は遺伝率が低く、遺伝的能力(育種価)の評価精度を高める一環で、広域的に収集された分娩成績記録を用いた育種価評価事業が実施されている。しかし、現行の評価事業の育種価評価モデルは飼育場所を地域・季節を組み合わせた18区分に分類することで暑熱を含んだ環境の影響を考慮しているが、暑熱の影響を十分に考慮できているとはいえない。そこで本研究では、暑熱環境下でも精密に育種価評価を可能とする、農場最近傍地点における気象庁気象観測記録を用いた遺伝的能力手法を開発する。
成果の内容・特徴
- プラトー線形折れ線回帰における折れ点(閾値気温)として、分娩時の一腹生存産子数では種付日最高気温の16.6°C、一腹死亡頭数では分娩日最高気温の22.9°Cが同定され、これら閾値気温を上回ると両形質は悪化する(図1)。生存産子数では排卵~着床前後の、死亡頭数では分娩直前の暑熱負荷が影響したものと考えられる。日最高気温が同定された閾値気温を上回る日数は、既に少なくなく、今後温暖化が進めばその日数はさらに増えることが予想される。
- 同定した閾値気温にもとづくプラトー線形折れ線回帰の形で暑熱の影響を考慮することで、特段の悪影響を及ぼさずに頑健な遺伝的能力(育種価)評価が可能である (表1)。
成果の活用面・留意点
- 本成果は温暖化を想定した効率的な豚育種改良における基盤的知見を提供する。
- 既存の生産データに無償利用できる気象観測記録を結合して実施できるため、得られた成果について、コスト効率の高い現場転用が即可能である。
- 品種はランドレース種であり、他品種や同一品種の異なる集団では結果が異なる可能性があるため、対象ごとに同様の検討を行う必要がある。
具体的データ

その他
- 予算区分 : その他外部資金(JRA畜産振興事業)
- 研究期間 : 2022~2023年度
- 研究担当者 : 小川伸一郎、岡村俊宏、福澤陽生、西尾元秀、石井和雄、木全誠(株式会社シムコ)、富山雅光(株式会社シムコ)、佐藤正寛(東北大院農)
- 発表論文等 :
小川ら(2023)日畜会報、94:193-198