要約
産卵鶏を慢性的に暑熱環境に曝露すると、卵殻形成に重要なカルシウムとリンの代謝を担う腎臓において、腎線維化(不可逆的損傷)とミトコンドリア機能異常が誘導される。
- キーワード : 産卵鶏、暑熱曝露、腎臓、線維化、ミトコンドリア
- 担当 : 畜産研究部門・食肉用家畜研究領域・食肉用家畜飼養技術グループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 研究成果情報
背景・ねらい
近年、地球規模の気候変動に伴う気温上昇が問題視され、畜産物生産への影響が危惧されている。産卵鶏においては、暑熱曝露により産卵量の減少や卵殻質の悪化が起こることが知られており、この原因の一つとして卵殻形成に重要なミネラルの代謝を担う腎臓の機能低下が疑われている。腎臓はミトコンドリアが多くエネルギー依存性が高いため、ストレス環境下では臓器障害が生じやすいと予想されるが、これまで暑熱曝露が産卵鶏の腎臓に及ぼす影響についての報告はない。そこで、本研究では、慢性的な暑熱曝露が産卵鶏の生産性、腎臓の線維化状態およびミトコンドリア機能に及ぼす影響を明らかにする。
成果の内容・特徴
- 32週齢のジュリアライト(白玉系産卵鶏)に対して、慢性的に暑熱曝露(32°C、Rh 55-60%、4週間)すると、産卵率、日産卵量、卵殻強度および卵殻厚が低下する(表1)。また、卵殻形成に重要なミネラルであるカルシウムとリンの血中濃度はそれぞれ低下し、腎障害の指標である血中クレアチニン濃度は上昇する(表1)。
- 暑熱曝露により、腎臓では、線維化領域が増加し、線維化に関連する3遺伝子の発現量も増加する(図1)。
- 暑熱により、腎臓では、ミトコンドリア活性の指標である組織中ATP量とミトコンドリアDNA(mtDNA)コピー数の低下が認められる(図2)。
- 暑熱により、腎臓では、cGAS-STING経路(細胞質DNAにより活性化される自然免疫シグナル)の活性化を介して炎症応答が誘導されており、これが腎線維化を亢進する一因であることが示唆される(図3)。
成果の活用面・留意点
- 暑熱曝露により、産卵鶏の腎臓において腎線維化とミトコンドリア機能異常が誘導されるという基礎的な知見であり、暑熱下の産卵鶏における生産性低下には腎機能障害が関与することが示唆される。
- 産卵ピークの産卵鶏における一定温度の慢性的な暑熱曝露試験の結果である。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 文部科学省(科研費)、環境省(環境研究総合推進費)
- 研究期間 : 2021~2023年度
- 研究担当者 : 原文香、大津晴彦、山崎信、村上斉
- 発表論文等 :
Nanto-Hara F. et al. (2023) J. Ani. Sci. Biotech. 14:81