ルーメン発酵の短鎖脂肪酸バランスは血中脂質濃度、乳脂率、メタン転換効率に影響する

要約

ホルスタイン種泌乳牛において、ルーメン内の(酢酸+酪酸):プロピオン酸比は、血中脂質濃度、血中リン脂質濃度、乳脂率、メタン転換効率と正の相関を示す。発酵産物の比率の違いは、乳酸産生菌、コハク酸産生菌、プロトゾア、真菌および主要なメタン産生古細菌の相対量を反映する。

  • キーワード : ルーメン、乳牛、メタン、微生物相、短鎖脂肪酸バランス
  • 担当 : 畜産研究部門・乳牛精密管理研究領域・乳牛精密栄養管理グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

ルーメン発酵に伴って生じるメタンは、あい気(ゲップ)として大気中に排出され、地球温暖化や飼料エネルギー損失の原因となっている。ルーメン内の短鎖脂肪酸バランスの指標である(酢酸+酪酸):プロピオン酸比(non-glucogenic to glucogenic short chain fatty acids ratio、以下NGR)とメタン産生は連動しており、NGR低値になるほどメタン産生量も低値になることが知られている。メタン低減を目的としてNGR低値化(プロピオン酸増強)を図る際に、他のルーメン発酵産物との関連性、家畜代謝、および乳生産への影響を明らかにする必要がある。

成果の内容・特徴

  • 家畜改良センター新冠牧場の搾乳ロボット(DeLaval社)を備えたフリーストール牛舎にて飼養している分娩後50-250日のホルスタイン種泌乳牛66頭について、NGR値によって低(22頭、平均NGR=2.44)・中(22頭、平均NGR=3.02)・高(22頭、平均NGR=3.98)の3グループに分け、ルーメン微生物相、およびメタン産生量、ルーメン液性状、血液性状、乳成分の特徴を調べる。
  • 低NGR牛のルーメン液性状は高NGR牛に比べ酢酸割合、酪酸割合、pH、アンモニア濃度が有意に低く、プロピオン酸割合が有意に高い(図1)。
  • ルーメン細菌および古細菌の群集構造は低NGR牛と高NGR牛の間で異なり、低NGR牛でコハク酸および乳酸生成菌(Prevotella属、Intestinibaculum属、Dialister属など)が特徴的に多く存在する一方、主要なメタン生成古細菌Methanobrevibacter属は少ない(図2)。
  • 低NGR牛は高NGR牛と比較して血中の総コレステロール濃度およびリン脂質濃度が低い。また、低NGR牛と高NGR牛の間でエネルギー補正乳量に有意差は見られないが、低NGR牛は高NGR牛と比較して乳脂率が低く、メタン転換効率および乳生産あたりのメタン産生量はそれぞれ5.1%、4.0%低い(図3)。

成果の活用面・留意点

  • 多頭数のホルスタイン種泌乳牛を用いて、一般飼育環境下でのNGRの違いによる血液性状、および産乳成績への影響を評価した結果である。泌乳牛でのプロピオン酸産生の増強、または酢酸産生の低減によるルーメン発酵制御によりメタン産生を低下させる場合の牛、および乳への影響を推定するための基礎的知見としても活用できる。
  • 同一飼料を給与した牛群での血液性状、および産乳成績である。数値は、飼料構成や牛群の違いにより変動する可能性がある。

具体的データ

図1 ルーメン内の短鎖脂肪酸バランスとアンモニア濃度,図2 NGRグループ間で存在割合が有意に異なったOTU,図3 血液性状、乳成分、メタン産生量

その他

  • 予算区分 : 農林水産省(ムーンショット型農林水産研究開発事業)、農林水産省(戦略的プロジェクト研究推進事業:畜産分野における気候変動緩和技術の開発)
  • 研究期間 : 2018~2023年度
  • 研究担当者 : 瀧澤修平、真貝拓三、小林洋介、舛田正博(家畜改良セ)、橋場健治(家畜改良セ)、内沢航太(家畜改良セ)、寺田文典
  • 発表論文等 : Takizawa S. et al. (2023) Anim. Sci. J. 94:e13829. doi:10.1111/asj.13829